第51話 深域 "Land of Immortals"
■■まえがき■■
今回のBGMは"Rhapsody of Fire"の"Land of Immortals"でお願いします!
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古戦場跡地の入口から中域に至るあたり。
そこで、僕は徘徊する無数のアンデッドを討伐していった。
ワンデリングをしている元王国軍の部隊とも幾度となく遭遇したが、難なく倒して経験値にかえた。
そんな日々を数ヵ月繰り返すと、周囲の瘴気は薄くなり月明りが差し込んでくるようになった。
僕の白魔法によって、少しづつだが浄化が進んでいるのだろう。
もはやアンデッドの怨嗟の声は聞こえなくなり、風を肌で感じるぐらい静かな地域になった。
僕は手ごたえを感じながら、中域から深域へと更に歩を進めた。
僕のレベルは83にまで上がっていた。
わずかな期間でここまで伸びるのだから、レベリング狩場としては最高かもしれない。
「ここから先は……モンスターも強くなりそうだな」
【サンクチュアリ】で聖域にした地面に座って、MPを自然回復しながら僕は独り言ちる。
魑魅魍魎の魔境。
古戦場跡地の深域はそんなところだ。
【ホーリーライト】に篭めるMPをかなり多めにしないと、視界が開けない。
中域に比べると、瘴気が格段に濃い。
おそらく……常人ならば、こんなところに居るだけで数分ももたずに発狂してしまい、間を置かずしてアンデッド化することだろう。
このあたりは、【白魔導士】という職業でよかったと思う。
MDEFも高いし、白魔法で対抗できるからね。
僕は、すこし遠目をとって、周囲のモンスターを窺う。
あれ一体で、千匹ほどのアンデッドが集合しているのだから笑えない。
それに、あれは……オークゾンビか。
手近なところにいる人族ゾンビを食したかと思ったら、オークゾンビの肋骨の隙間から人族ゾンビが零れてしまい、再度それを口にするようなことを繰り返している。
ずっと同じ人族のゾンビを食し続けているとか……。実はエコなヤツなのかな?
遠くには山ような巨大なフォルムが少しづつ動いている気がする。
成体のドラゴンゾンビかもしれない……。
さらにはそのドラゴンゾンビと並走するように、悪霊の集合体である
レギオンを更に数十体足し上げれば、あそこまで至るのだろうが……。
なぜ、死後もそこまで団結しようとするのだろうか。
百鬼夜行とでもいえばよい光景に、僕は呆れかえってしまった。
いったい、どれだけ不浄の魂が充ちているのか想像もできない。
この地に巣食う全ての邪悪を葬り去ろう。
僕はそう決意をすると立ち上がって、手近なところにいたオークゾンビを【ヒール】で攻撃し始めたのだった。
■■あとがき■■
2021.08.22
段取りに頭を抱え始めた筆者に対して、ヅラ市長は告げた。
「そういう事務的な段取りで悩まなくても良いように……、是非オススメしたい委託先があるのだがね」
「マジですか」
「ああ……T社だよ」
「な、なんですって!」
T社。
ヅラ市長の配下組織とは懇意にしている……高スキル者を揃えるプロ集団だ。
たしかに、あそこならば……。
「なんせ、T社には当社に出向してくれていたU君がいる。彼ならば安心だよ」
「Uさんですか!」
かつては、筆者のカウンターパートをしていたこともある。キレ者だ。
彼ならば社内の段取りや内規も全て理解している……。
勿論、筆者の行っている業務も全て……。
「T社ならば、すぐに事が運べると思うのだがね」
「いえ、ですが。それは」
たしかに魅力的な提案だ。T社に委託すれば業務を回せるかもしれないが……。
だが、筆者の職業倫理観では到底飲めない話だ。
「大丈夫だよ。予算も確保しているし、契約審査にも時間はかからないだろう。いままでの実績もあるから随意契約も結びやすい。どういう意味か分かるね?」
「ああ……そういうことですか……」
脱帽だ。
脱帽だよ、ヅラ市長……。
「ははっ……。その発想は無かったです」
筆者は思わず天を仰ぐ。
なんということだ。
筆者の業務を取り込めば……T社にかなりの仕事が流れることになるだろう。
憶測にすぎないが……ヅラ市長は、頭皮にヅラをくっつけるだけでなく……他社ともくっついている……。
ヅラ市長の口添えがあれば、社内調整にはさほどの時間もかからないだろう。
すでにレールが敷かれてしまっていたというわけだ。
実際、筆者はここ数年、声高に増員を要望していた。
にもかかわらず、誰も相手をしてくれなかった。
……これから先も要員が増える見込みなど、どこにもない。
T社に委託する以外には、筆者が生き延びる道はないのだ。
夏期休暇も取得したいし。
清濁併せ呑まないと生きていけない。
まさに乱世。
これを機に、筆者も一つ大人の階段を上ることとしよう。
しかし、改めて思い知るのは、ヅラ市長の(主に生え際的な意味で)ラインコントロールの絶妙なことよ。
きっと……筆者が余裕を失ってスタックする寸前を見計らってから提案してきたのだろう。
ついさっきまでは、筆者の取りうる選択肢は何もなかった。
それはまるで、脂ぎったカチカチの頭皮同然の不毛の地のように。
だが、ヅラ市長の提案を受けたいまとなっては、リアッ●を塗布しまくって力強い毛根が根をおろしたフサフサの大地といってよい。
もはやこれまで。
「その話、前向きに検討させてください」
頭皮隠してヅラ隠さず。
いつの皮下、筆者のこの選択を誰かが批判するようなことがあるかもしれない。
少しだけそんな不安を覚えたが、筆者には他に道はなかった。
T社に委託する以外には、筆者が生き延びる道はないのだ。
夏期休暇も取得したいし。
(つづく。あとがきはサクサク書けるのに、本編はスランプ。)
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