第11話 初戦闘 "The Game"

■■まえがき■■

 今回のBGMは"Dragon Force"の"The Game"でお願いします!


------------------------


 モンスター。

 野生動物とは大きく異なる人類の敵。

 この世界では、そんな異形の生物たちが跳梁跋扈している。

 

 存在の根底から人類を憎んでいるという設定だそうだ。

 実際、モンスターは人間を視認すると、すぐに襲い掛かろうとする。


 男だったら殺しにかかってくるし、人間の女性を見ると……容赦なく苗床にしようとしてくる。

 原作がエロゲーだったとしても、エグい。エグすぎる。

 

 だから、子供のうちは絶対に村から出ないように大人から言われる。

 人間の子供なんて……モンスターにとっては生餌みたいなものだから。

 


 そんなモンスターたちを倒すために、僕はワンジョー平原にこれから向かう。

 二つ目のチートアイテムを入手した最序盤のマップ。

 そこの雑魚たちなら、レベル1とはいえ、僕でも戦えるはずだから。


 大人にバレたら、今後のレベリングの邪魔をされるかもしれない。

 だから、両親が寝静まったのを確認し、僕は家から抜け出した。


 村はずれの柵を乗り越えると、僕は平原に向かった。


 "タナカ"の前提知識では、ワンジョー平原は視界も開けていて、モンスターが群れで出現しない。

 二つ目の職業を獲得した僕だ。

 タイマンの戦いならば、ステータスで圧倒できるはずだ。



 有酸素運動をしばらく堪能した後、目的地に到着した。


 タンクトップとショートパンツ姿の僕は、ワンジョー平原を見渡す。

 夜の月あかりに照らされた平原には、背丈の高い草がまばらに見えた。

 視界を遮られるかもしれないので、背丈の高い草が茂っている辺りに近寄らなければ安全だろう。


 風が吹くと草木が揺れ、かすかな虫の音が、満天の星空の下に聞こえてくる。

 まるで世界に僕一人しかいないような穏やかな時間だった。

 ずっとトレーニングに明け暮れていた僕には、久しく心が安らかになる時間などなかった。


 モンスターがいる危険な場所にいるはずなのに、この空間の生み出す心地よさに魅せられてしまっていた。




 そのときだった。



 僕の右斜め前の草むらから、大きな黒い塊が飛び出してきた!


 草原鼠だ!

 


 衝。



 50センチほどの鼠に体当たりをされて、僕は思わずよろめいてしまう。


 くそ!


 体勢を崩されてしまった僕は、とっさに草原鼠の顔面に拳を打ち込もうとする。

 だが、崩されながら放った拳は、相手を捉えることはなかった。

 それどころか、草原鼠の勢いを殺しきれず、押し倒されてしまう。


 両手で草原鼠を突き放そうとするが、相手は僕の首筋を狙って、その汚い口から見える歯を突き立てようとして、懸命に体をねじりこませてくる。



 あれだけトレーニングしたのに!

 ステータスでは圧倒しているはずなのに!

 なんで!


 油断をしてしまっていた僕が悪いのかもしれない。

 けれど、僕はまだこんなとこでは死にわけにはいかない!


 僕は、咄嗟に、両手を草原鼠の首下に動かした。

 そのまま喉輪にし、奴の首を締め上げる。


 だが、草原鼠は必死の抵抗をする。

 全体重をかけて、押し倒されている僕の首筋にねじりよってくる。

 

 草原鼠の赤い眼と、僕の眼が合った。

 その瞬間、お互いが命を獲りあう獣に過ぎないことを理解した。


 お前なんかに!

 お前なんかに殺されてたまるか!


「ピンチグリップ……!」

 師匠に教わった表48種目のワークアウトのうちの一つを思い出しながら、僕は全力を両手にこめて、懸命に締め上げる。

 奴も全力をこめて、その歯を突き立てようとする。


 それは、洗練された戦いなどではなく、単なる獣の命の獲り合いに過ぎない。


 奴が僕に近づこうとすればするほど、それに比例するように僕が力を込めて締め上げていく……




 バキッ




 僕の両手から、変な音がした。

 その瞬間、草原鼠の赤い眼は白目をむき、かかってきていた圧がなくなった。

 

 僕の両手が、草原鼠の首の骨を折ったのだった。



 もはや生命を感じさせない草原鼠を横に置くと、僕はあえぐようにして呼吸を整えようとする。


 "雑魚しかいないマップ"。


 "タナカ"の知識ではそう呼ばれていたはずなのに……僕は初戦で死にそうになった。

 

 あれだけトレーニングをして、村のみんなが僕の体格に驚くぐらいなのに。

 僕はあいかわらず無力なガキに過ぎないのだった。



 天狗になっていた僕の鼻っ柱はボキボキに折られてしまった。


 僕のデビュー戦はとてもほろ苦く……。

 気が付いたら涙を流していた。



 僕は、草原鼠の骸を【マッスル・インベントリ】に収納し終えると、村に戻ることにした。

 今日、再びモンスターと戦う気にはならなかった。


 帰路を歩く僕の身体はとても重く、そして、初めて命を奪った僕の両手は何か穢れたもののように感じられた。








■■あとがき■■

2021.04.03

すみません!

二日ほど寝落ちしてしまった結果、更新が遅れました!

今回は旧作と戦闘シーンに大差ないですけど、そのうち変わってくるはず……!



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る