第12話 レベルアップ
モンスターを初めて殺した。
その体験は棘となり、僕の心に刺さった。
一晩寝てもわだかまりが残っていて、トレーニングをしてもどこか身が入らなかった。
思い返せば、今までの人生において生き物を殺したことなど無かった。
たとえモンスターといえど、命を殺めたという事実に僕は罪悪感を覚えているのだろう。
僕が庭先で座って自責の念に苛まれていると、クロエがいつものように遊びにきた。
「クロエ!」
僕は立ち上がって、彼女のもとに駆け出す。
視界に飛び込んできたのは、彼女の笑顔だった。
全てを吸いこむような漆黒の瞳が、僕を見つめてくれている。
そのブラックダイヤモンドのような美しさに心を奪われると同時に、僕の悩みは雲散霧消してしまった。
そうか。
僕はこの笑顔を守るために戦っているんだ。
もし僕がここで戦うことを止めてしまったら、きっと彼女を不幸にしてしまう。
そもそも、彼女に害をなすモンスターを生かしてはおけないし、僕は強くならないといけないのだった。
だから、僕は戦うんだ。
落ち込んでなどいられなかった。
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再び覚悟をきめた僕は、深夜のワンジョー平原に向かいながら思考を巡らす。
なぜ、昨日のデビュー戦で追い込まれたのだろうか。
何ら装備もしていないレベル1とはいえ、"力"は21もあるのだ。
安全マージンを考えても、原作の世界なら一瞬にして屠れるぐらいの力量差がある。
それにもかかわらず、もし草原鼠に首筋を噛み切られていたら、相当の深手を負っていたことは想像に難くない。
そうすると……
やはり、この世界は"ゲーム"であって"ゲーム"ではないのだと思う。
数値が乱数処理されるような単純な世界ではなく、"リアル"として存在する複雑怪奇な世界。
そこに住む生物が生存本能に任せて行動した結果、予測不可能な大番狂わせも起こりうるのだろう。
導き出された結論に背筋が寒くなってしまうが、逃げることはできない。
偶然にも得た"タナカ"の知識で、状況を少しでも良くしていくしかないのだから。
まだ、方向性を見通せるだけマシと思うしかない。
ワンジョー平原につくと、僕は草原鼠を探る。
見つけると、草原鼠の後方から襲い掛かって、息の根を止めていく。
昨日、僕は不意をつかれた。
だからこそ、逆に相手の不意をついてやれば有利に運べることを学習できたのだった。
"操作"が18もあれば、初期マップの敵を相手にして遅れはとらない。
僕は、自分の手を汚すたびに動揺する心を鎮めながら、作業と思い込んで草原鼠を狩っていく。
モンスターを狩る回数が増えれば増えるほど、命を奪うことへの抵抗感は減っていった。
人間の慣れというのは恐ろしいものだと思う。
通算七匹目の草原鼠を殺した時だった。
――レベルが2に上がりました――
僕のレベルが上がった。
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