第23話 確保

 "靴王"。


 装備するだけで【ガッツ】を可能とする靴。

 

 脚周りの装備品としての性能も一級だが……。

 この装備品で発現するユニークスキルの性能がピカイチだ。

 なんせ、一戦闘において死亡を一度だけ阻止することができるのだから。


 前回のクイーン戦は、正直かなり死亡リスクが高い一戦だった。

 ああいった想定していない事態が起こるわけだから、"靴王"を何としても手にいれなければならない。



---------------


 そんなことを考えながら、僕は、王都のヴェガ商会のショーウィンドウを眺めている。


 中央通りに位置する大店だけあり、そこのショーウィンドウには高額な装備品が所狭しとディスプレイされている。

 その中で、最も目をひく位置に置かれているのが"靴王"だ。


 使用されている素材はワニ革。

 ツヤ感のある光沢を放ちながら、上質でラグジュアリーな雰囲気を醸し出して、僕を魅了してくる。

 名前のとおり、靴の王様だと思わせる逸品といえるだろう。


 だが、その下に書かれている値札を見ると、気落ちしてしまう。


 当然のことながら、その性能に見合うだけの金額が書かれているのだ。

 僕の小遣いに換算すると、一万年分ぐらいだろうか。


「はぁ~。これは厳しいね」

 原作では、さまざまなルートで入手できるアイテムではあるのだが……。

 

 王道なのは、終盤まで金策をしてキャッシュで一括購入するパターン。

 その次にポピュラーなのは、万引きするパターン。ただし、王都に二度と近寄れなくなるというデメリットを覚悟しなければならないが。

 あとは、かなりハードなお使いクエストをこなして、商会のトップに気に入られて譲られるパターンぐらいか……。


 どれもハードルが高い。

 ゲームならばともかく、現実で犯罪に類する手段はとりづらい。


 だが……。

 確保したい。

 この"靴王"をどうしても手元に確保したい。

 

 "靴王"の放つオーラに魅せられるかのようにショーウィンドウに手をついてしまう。


 あっ指紋ついた。やべっ……。

 ……まぁいいか、掃除をするのは僕じゃないし……。


 拭き掃除をする掃除夫さん、ごめんなさい!


 少し動揺してしまったが、再び、僕は"靴王"に視線をうつし……




 ガチャッ。



 僕の手首に金属製の輪っかがかけられた。



 おやっ?



「そうそう、こういう手錠みたいなブレスレットが欲しくて……」

 

 再び"靴王"に視線を戻そうとして……



 うん?



「これ、手錠だよね……?」

 今更ながらに、僕は自分の手元を見やる。

 なんで僕が手錠をかけられないといけないんだろう?


 僕は手錠の鎖の先を見やる。



 そうすると、僕の手首にかかる手錠を握りながら、スーツ姿の女性が口を開いた。

「石等級冒険者のタナカだな。

「タナカ……?」

 僕は思わず、女性の視線をたどるかのように背後を見る。


 僕の名前はワイトのはずだが……?

 まったく、人違いで手錠をかけるなんて……。

 ましてや、手錠をかける時点で任意同行とは言えない。

 この女の人、間違いすぎだろ……。


「と、とぼけるな! お前がタナカだというのは分かっているのだからな!」

 顔を真っ赤にしながら、女性が大声をあげる。


 よく見ると……、凄まじい美人だ。

 高身長ですらりとした手足に、腰まで伸ばした赤髪が揺れる。

 その強い意志を窺わせる切れ目からは、緋色の瞳が見え隠れしている。

 二十歳ぐらいだろうか。大人の女性の色香を感じる。


「でも……僕は……あっ!」

 そういえば、以前、冒険者ギルドで"タナカ"って偽名を名乗ってカード作ってたわ。

 すっかり忘れてた。

 ついでに、死体を置き逃げしていたことも思い出してしまい、血の気がひいてしまう。


 ニヤニヤしながら彼女は言った。

「どうやら思い当たることがあるようだなぁ。悪いようにはせんから、少しだけ一緒に来てもらおうか」

 

 マズイ……このままだとマズイ!

 

 僕は口を開いた。

「すみません。ちょっとお腹が痛くなったんで、トイレ行かさせてもらっていいですか?」

 ここは……トイレに逃げ込んでからの【マッスル・ワープ】しかない!


「そういって鍵をかけて行方をくらませるのだろう。王都ギルドは三日もトイレを利用できなくなって、大層困ったそうだが?」

 女性のニヤニヤが止まらない。


 えっ……三日もトイレ使えなかったの?

 その間、職員の皆さん大変だったんじゃない?

 マジ申し訳ないです。


「あっ、いえ、そういうわけでは……」

「そうだよなぁ。まさか、空間系魔法で逃げ切ろうなんて思ってないよなぁ?」

「うわっ……私の行動バレすぎ……」

 おもわず昔のウェブ広告のように口元を両手で押さえてしまう。

 


「さぁそういうわけだ。ついてこい!」

 


 そうして、僕は、美人のお姉さんに身柄確保されてしまったのだった。


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