第26話 プレゼント "What Makes You Beautiful"

■■まえがき■■

 今回のBGMは"One Direction"の"What Makes You Beautiful"でお願いします!


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 ガサットさんやモニカさんに勧められるがまま、僕はヴェガ商会に向かった。

 

 王都ギルドでは、四千万ヴァルローグもの大金を受け取った。

 その重みを感じながら歩いていると、あっという間にヴェガ商会の店舗に着いた。


 ショーウィンドウの中では、"靴王"が圧倒的な存在感を放っている。


「はぁ……。まだ随分と遠いな」

 "靴王"を購入するには、三億ヴァルローグも必要となる。

 これからの金策のことを考えると、頭が痛くなってくる……。


「その靴が気になりますか」

 閉店準備をしていた店員さんが声をかけてきた。


「ええ」

 僕は"靴王"から目を離すと、店員さんに目を向ける。

 五十代ぐらいだろうか。

 小柄ながらも恰幅がよく、髭を蓄えて、大きめの前掛けをしている。

 その人好きのする笑顔に少し照れながら、僕は続けた。

「いつかは手に入れたいと思っています」


 そんな僕の回答に、店員さんは顔をほころばせる。

「ええ。貴方のような夢をもった若者に是非ご購入いただきたいと考えています」

「ただ、まだ全然お金が足りないですが……」

「そうでしょうね。時間はかかるかもしれませんが、いつかその日が来ることをお待ちしています」


 店員さんはシャッターを降ろしながら、僕に言った。

「もしよろしければ、少し店内をご覧になられますか?」

「えっ。もう閉店時間なのに、良いんですか」

「少しの間なら大丈夫ですよ。他のお客さまにはご遠慮いただきますが……」

 そういうと、入口のドアに"CLOSED"と書かれたプレートを下げて、僕に店内に入るように促してくる。


「失礼します」

 予想もしていなかったお誘いに僕は応じて、店内に足を踏み入れた。



「これは……とても手入れされていますね」

「ありがとうございます。そう言っていただけると何よりです」


 陳列棚は綺麗に並べられており、奥行きのある店内には整理された展示品が並んでいた。

 原作で言うところの"折り返しぐらいで店売りされている装備"が整然と展示されている。

 中盤ぐらいに舞台となるのが王都だから、王都の店売り装備は序盤においては抜群の性能となる。


「そうだ…。ここで買えばいいのか」

 僕は、ある目的のためにここの店売り装備を仕入れる方向で、心のなかの舵を切った。

 


 僕は、広い店内の陳列棚の間を足早に歩く。

 あまり長引かせては、こんなに気をつかってくれた店員さんに悪い。


 陳列棚の端まで歩いて、折り返しに入ろうかというときだった。


 とんでもないモノが目に飛び込んできた。


「なっ! これは……"クリスタルピアス"!」


 ショーケースの中に飾られていたのは、シルバーチェーンに垂れ下がるクリスタルドロップ。

 原作では、王都周辺の雑魚が低確率でドロップするレアアイテムだ。

 装備するだけで【二回攻撃】を可能とする、超優秀な装備品なのだが……。


「まさか……こんなところで売っているなんて……」

「おおっ。それに目をとめるとは流石ですね。こちらは滅多に手に入らないのですが、このたび出物がありまして……バイヤーが仕入れてきたものです」

「これほどのものを取り扱っているなんて……脱帽です」


 長く伸びるシルバーの先に、曲線的なクリスタルがぽつんと下がったピアス。

 これならば、女性の美しさが引き立つことは間違いないだろう。


 クリスタルピアスを見ながら、店員さんは続ける。

「クリアに輝くクリスタルと、洗練されたデザイン。ですが、華美ではありません……。性能だけでなく、このデザイン性の高さからとてもご好評いただいております」


 くっ。

 なんとも僕の心を押してくるセールストークだッ……!

 これは……買わざるをえない!


「すみません。これを売ってください!」

 四千万ヴァルローグが入った革袋を手渡しながら、僕は言った。


 革袋の中身をあらためた後、店員さんはショーケースのなかからクリスタルピアスを取り出す。

 そして、アクセサリーケースの上に置き、レジ横に移動した。


 僕も店員さんの後を追って、レジ横に移動する。


 さっきから汗が止まらない。

 よくよく考えたら、僕の人生でこんな高額な買い物をするのは初めてだ。


 僕は手に持っていた見慣れないカードをレジ台の上に置くと、掌で汗をぬぐう。

 掌にはとてつもない量の汗がまとわりついてきた。


「うわぁ。すごい汗だ」

 僕がその汗の量に驚いていると、包装を終えた店員さんが紙袋を差し出してきた。


「これだけ思い切り良く買っていただいたのは久しぶりです。この度はご利用ありがとうございました」

「いえ、こちらこそ。これほどのものを……まさかお店で買えるとは思いませんでした。今後も是非利用させていただきたいと思います」


 そうして、紙袋を受け取った僕は、店員さんに見送られながら家路についたのだった。







「しかし、今日は随分と気持ちよく商売をさせていただいたものですね。ああいった前途溢れる若者を相手にした取引はやめられませんね……」


 店内の灯りを落とした後、レジ台で日締め処理を行いながら、ヴェガ商会王都本店の総支配人は自然とつぶやいていた。

 ふと、あるものが、そんな彼の目に留まった。






「おやっ、このカードは一体……? 銅等級……タナカ? ひょっとしてさっきの彼の忘れ物かな?」



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 後日。

 僕は十歳の誕生日プレゼントをクロエに渡した。


 クリスタルピアス。

 それが納められた小箱を渡しながら、僕の心臓はバクバクと破裂しそうだった。

 買うときよりも、渡すときの方が緊張するということを初めて理解した。


「これは……?」

「今年の誕生日プレゼントだよ」

「……ありがとう……。こんな高価そうなものを」

「心配しないで。そんなに大したことないから」

「開けてみるね」


 小箱を開けた後、彼女はしばらく口を開かなかった。

 彼女の目は釘付けになっていた。


「こんな素敵なものを……ありがとう」

 やっと口を開いた彼女は謝辞とともに、僕にとびきりの笑顔を見せてくれた。


 その、僕にだけ見せてくれる彼女の笑顔。

 僕は……。

 この笑顔を守るために、これからも戦い続ける。


 クロエはきっと、自身の美しさがどれだけのものか分かっていない。

 でも、だからこそ。彼女は美しいんだと思う。

 




 


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 さらに後日。

 一枚の銅等級の冒険者カードが、遺失物として王都ギルドに届けられた。




 そして、王都ギルドの遺失物を陳列している棚を凝視しながら、一人の女性職員がブツブツと独り言をつぶやいていた。




「なぁ。なぁ。なんなんだ、この腹の奥底からこみ上げてくる気持ちは……。教えてくれよ……タナカ。この気持ちの正体は何なんだ……。このプレゼントに、私はどんなお返しをしたらいいんだ……なぁ。教えてくれよ……。私の頭の血管はいまにも破裂しそうだ……なぁ。なぁ」






■■あとがき■■

2021.05.23

本作のPVが1500を超えました!

皆様のご愛顧のおかげでございます!

コメ付レビュー、応援メッセージ、★、♥をいただき感謝感謝でございます!


あと、更新遅くてすみません。

リアルやばいんで……平日に疲れて寝ることが増えました。申し訳ございません!


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