第25話 昇進

「専属SM嬢のチクビコリコリーナさん! これからよろしくお願いします!」

「ぜ、全然ちがうわあああああああ!」

 彼女は全力で叫ぶと、僕の乳首を全力で引っ張ってきた。


「もげるぅ! もげちゃう!!」

「私の話をどう聞いたら、そうなるんだ? なぁ? なぁ?」

「うわあああ、あっ」

「チクビコリコリーナって、どこから出てきたんだ? 私がそう名乗ったのか? なぁ?」

「ああああっあっ、すみません。チクビコリ子さんが正当でした。訂正させていただきます……ああーん!」

「それも違うわぁあああああ!!!」


 高橋名●ばりの秒間十六連射が僕の乳首に襲い掛かろうとした、まさにそのときだった。



「そのへんぐらいにしておけよ……」

 事務作業を中断したガサットさんが、いつの間にやら近くにいて、声をかけてきたのだった。



「ガサットさん!」

「パパ!」


 ……? パパ?

 えっ。二人とも赤毛だし、そういうことなの?


「まぁ……モニカの頭に血が上ってしまうのも分からんではないが……。タナカも色々と足りてないからな……。このまま二人に任せていたら、十話ぐらい特殊なプレイで消費してしまって、数少ないフォロワーに逃げられるところだったぜ」



「ガサットさん……!」

「パパ……!」


 ガサットさんの言うとおりだ。

 その深謀遠慮たるや、底が知れない。

 ここで読者の皆様に逃げられてしまったら、筆者も今後の展開に困ってしまうところだった。

 流石、ギルドマスターだ。


「モニカからの説明が不足していたから申し訳ないが……。モニカは、タナカに自分との専属契約を結んでほしいだけなんだ。ギルドの受付嬢にとって、将来性のある冒険者を囲い込むことが重要だからな。少し強引だったかもしれんが……。あと、サボりすぎるのも問題だが……」


「ドSすぎて……。てっきりSM嬢かと思ってしまいました」

 僕がそういうと、モニカさんは殺意のこもった視線を飛ばしてきた。


「タナカもタナカだ。タナカが足りてないのは十分承知しているが、いくらなんでもふざけすぎだ。モニカが何も説明してなかったとしても酷すぎるだろう。自分から質問するぐらいしないと。もはや、お前の相手をしてくれる受付嬢など、モニカぐらいしかいないぞ」


 深く息を吸って、ガサットさんが続ける。

「死体の置き逃げもそうだが、長期間の失踪。事件性が無いことを証明するためにギルドが裏で尽力していたことなど、想像だにしていないだろう? たしかにタナカの功績は大きい。だが、首の皮一枚でつながっていると思っておけよ。次に同じようなことをすれば、除名することも視野に入れるからな」


「パパ……。もっと言っていいわよ」

 モニカさんがそういうと、ガサットさんは苦笑いを浮かべた。


「まぁそういうわけだ。王都ギルドのマスターとして、二者間の専属契約を認めよう。ただ、二人ともちゃんと協働しろよ」

「協働?」

「どういうこと、パパ?」

「タナカが迷惑行為をしないようにモニカはお目付け役を務めろってことだ。これからはタナカは今まで以上に行動を慎まなければならないし、モニカは専属の冒険者が暴走しないように十分に注意しておく必要がある。もし二人が背くようなことがあれば、二人そろってクビにするから真面目にやれよ。ああ、あとは……」


 そういうと、ガサットさんは手前の棚から革袋と銅で出来たカードを取り出すと、持ちよってきた。

 

 それを目の前のローテーブルに置くと、僕に言った。

「タナカもこれからは銅等級冒険者だ。他の模範となるように行動しろ。それと、この革袋には前回の討伐報酬が入っている。なかなか来ないから渡しそびれていたが、やっと渡すことができたぜ。中身はすぐにこの場で確認してくれ」

 

 促されるままに革袋を開けると、そこには帯封をされた紙幣の塊が四つも入っていた。

「これは……。四千万ヴァルローグ!?」


 この神聖ストツ王国では、ヴァルローグなる通貨単位が採用されている。

 王立大学を卒業した新卒の初任給がだいたい二十万ヴァルローグだから、この金額は破格といってよい。


「すごい……。こんなに……ガサットさん、ありがとう」

 僕は素直に謝辞を告げる。


 持ち上げた革袋が急に重くなったように感じた。

 ひょっとしたら、この革袋には、ガサットさんの優しさが込められているのかもしれない。


「これからは、ちょくちょく顔を出して納品しなさいよ。まとめて納品されたら、解体の手配なんかも大変なのよ」

「モニカさん……」


 いきなり乳首をコリコリしてきたから、てっきりドSの女王様かと思った。

 けれど、第一印象と違って、モニカさんはどうやら気遣いのできる人のようだった……。


 彼女は続ける。

「ヴェガ商会で何か欲しいものがあったんでしょう? 今なら店もギリギリ開いているから、すぐに行ってきなさいよ」


 僕のデスホーネットクイーンとの闘いを目撃していたことから、油断できない人なのだとは思うけど……きっと優しい人なんだろうと思った。





 そうして、僕は王都ギルドを出て、再びヴェガ商会に向かったのだった。

 ガサットさんやモニカさんと仲良くなれたことで上機嫌になりながら。












「分かったか?」

「はい」

「タナカは良くも悪くも危険人物だ。これからの伸びしろはあるだろうから【監視】は細目に入れておいてくれ。【監視】しやすいように、今回渡したカードには細工をしておいたからな」

「了解」

「それと、乳首を脈絡もなく弄るの禁止な。あと、サボりも禁止な」

「……」

「いや、そこは返事してくれよ……」

 

 そんな二人の会話があったことなど、僕は知る由もなかった。

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