第39話 反撃の狼煙 "Hearts on Fire"

■■まえがき■■

 今回のBGMは"Hammerfall"の"Hearts on Fire"でお願いします!


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 ゴブリンキングが身体を密着させて放った右ショートアッパー。

 それが顎下に楔のように刺さる。


「ぐごっ」

 後ろによろめくいた僕が前方を見据えると、キングは不敵な笑みを浮かべながら見下ろしていた。

 自らの余裕を誇示しているのだろう。

 

 四天王の一角に位置する漢の強さに戦慄を覚える。

 だが、もう戦いは始まっているのだ、こんなところで怖気づいてどうする!

 戦いながら考えるしかないんだ!


 僕は、上から打ち下ろすような右ストレートを放つ。


 


 躱。



 僕が放った右をバックステップで避けると、さらに追い打ちで放った僕の左を空中で腰を回転させてスウェーすることで見事なまでに避けた。


 あとに残ったのは、僕が喰らったショートアッパーとキングとの間に開いた距離だけだ。


「くそっ、当たらない」

 明らかにキングのスピードが僕を上回っている。

 さらに、格闘の経験でも圧倒的に負けているのだろう。


 一挙一動を読み切られているようなプレッシャーを感じながら、僕はガードを上げて様子を窺おうとした……



 シュッ。

 

 矢のようなジャブがロングレンジから放たれると、僕の両腕のガードを抜けて伸びてきた。

 Kのような姿勢を取りながら、やはり重心を後ろに置いたパンチだ。


 僕は顔面でそれを受け止めながら、左ボディを返す。


 だが。

 斜め後ろにキングがバックステップをすると、もともとの距離があったため、容易くかわされてしまう。

 これじゃあ、ヒットアンドアウェイの見本みたいじゃないか!


「くそっ! 当たれ!」

 大振りの右フックを打ち下ろし気味に放つが、キングはダッキングをすると低めに屈んで腰をひいて避ける。


 あ、当たる気がしない……!!


 僕は再び両腕でガードを作りながら、ガードの隙間から様子を窺おうとするが……。

 


 シュッシュッ。

 そのわずかな隙を突いて、左の連続ジャブが僕の顔面に当たる。

 僕の両腕の隙間をかいくぐらせるように、縦に拳を立てて打ち込んだパンチだ。



 ブシュッ!


 辺りに鮮血が飛び散る。

 くそっ、目の上をカットされた。


 このままだと、血が垂れてきて視界が塞がれてしまいかねない。

 僕は【ヒール】をしながら、後ろに大きく跳躍をして仕切り直しを図る。

 このままだと怒りに任せて行動してしまい、かえって僕が追い詰められかねない。



「ふぅッ……ふぅッ……!」

 あがっている息を深く呼吸することで整え、作戦を練る。

 荒い息をわずかな時間で少しでも落ち着かせる。


 こうなったら……。 

 頭を狙っても巧みに避けられるのだから、的の大きい身体を狙うしかない。


 僕はそう意識を切り替えると、全力でダッシュをして距離を詰めて右ボディストレートを放つ。

 僕の全体重が載った渾身のストレートを喰らえ!



 轟。

 防。


 小細工を弄さない僕の右ボディストレートがキングに放たれた。

 だが、キングは両腕でL字ブロックを作って防ぐ。

 

 腕だけでなくたくみに膝や腰を使われた結果、衝撃が吸収されて……キングはノーダメージだ。



 ボグッ。

 それどころか体勢が崩れてガードができていない僕の顔面に、コンパクトにキングが振った右拳が刺さる。

 

 さらに、キングの目線が僕の顔を見ていることを察知し、僕はすぐにガードを上げて、次なる攻撃に備える。

 防戦一方だが耐えるしかない。


 だが。

 キングは目線をそのままに少し腰を下げて、僕の腹に左ボディストレートを見舞った。


「げふっ!」

 こちらの出方など全てお見通しだとばかりに、巧みな組み立ての前に僕は成すすべがない。

 腹部への衝撃のあまり、僕のガードが下に落ちてしまう。


 そして、キングは一気に距離を詰めると右ショートアッパーを超至近距離から前かがみになった僕に打ってきた。 


 顔面が振れて、視界がぶれる。



 僕は意図せずに、膝をついてダウンをしてしまっていた。

 少し喰らい過ぎてしまったのかもしれない。




 僕がダメージのあまり深く荒れた息をするのをp、キングは笑いながら見守っている。

 もはや余裕を感じさせるなどという表現では済まない、傲岸そのものといった様子だった。


 僕は、そんなキングの様子にある言葉が思い浮かんだ。



 舐めプ。



 くそっ!

 ふざけるのもいい加減にしろ!

 

 僕は、貴様と戦いながらパターンを学び……、そしてその動きに眼が慣れてきているんだよ! 

 


 僕は【ヒール】をかけて再び立ち上がると、ガードをしながら距離を詰める。

 頭部への攻撃を嫌がっている素振りをしながら、キングを誘い込む。


 余裕を見せながら、キングは僕の顔を見ながら右を放った。

 このパターンは……!


 きた! 

 僕の想定通り、低めの体勢から放った右のボディストレートだ!

 どうやら、慢心のあまり……単調な攻撃になってきたのだろう。

 僕を舐めるのもいい加減にしろ!



 



「くらえ! ニートゥエルボーォオ!」

 "センター山まっする君" 師匠から教わった、裏のワークアウトのうちの一つを繰り出す。




 砕。



 僕の膝先と肘先が……龍の咢の如く大きな円を描いて、ゴブリンキングの右腕を挟み込む!

 事ここに至って、ゴブリンキングの顔から笑みが消えた。


 

 ボキボキグチャッ。


 ゴブリンキングの尺骨と橈骨が粉砕された。

 その手首から先は皮膚だけで支えられて、垂れ下がるようになったのだった。

 





■■あとがき■■

2021.07.04


 おやっ。部付部長からメールが……。

 この人からメールが来るなんて珍しいな。

 しかし、あいかわらず次長とどっちが偉いのかよくわからん役職だぜ。

 

 そんなことを思いながら、筆者はメールを開いたのだった。


『テリードリームさん、昇進おめでとう! 早速ですが、お願いがあります。。。貴方の隣に座っている1月から来たJさんですが、この半年間の働きぶりをみると……。両手の人差し指でキーボードを叩いているところから見てもあまりお仕事のできる方ではなさそうですし、他社員と諍いを起こすことも多くあります。そこでお願いしたいのが、彼の前部署での働きぶりを知ってそうな方に内密で探りを入れてほしいのです。前部長が人事部に確認した際には、問題情報なしとのことだったので当部で受け入れたのですが……』

『わかりました。早速調べてみます』


 名ばかり管理職になって早々、人事ネタの調査依頼かよ。仕事のできる人間はツライな……。

 仕事をサボってカクヨムを読む時間が削られちまうぜ……!


 ……しかし、たしかにJさんは怪しいんだよな。

 俺より勤続年数が十年以上長いのに役職だいぶ下だし、普通の人なら1時間以内で終わるエクセル入力作業しか持ってないのに何故か毎日2時間以上超勤してるし、派遣社員とか若手女性社員とかに高圧的な態度で仕事をさせていたりするし……。

 よくよく考えたら、1人が1時間で済む仕事を10時間以上かけて、しかも他社員に協力させてるとかありえん……。

 

 頭が悪すぎるから会話をするのもムカつくし、送ってきたメール読んだら駄文すぎてイラつくし、今までは管理職でもなかったから筆者も興味なかったしで、完全シカトしてたツケが早くも出てきてしまったか……。


 しょうがない。いっちょ調べてみますか。




 つづく。

 (※あとがきは、創作っぽいナニカです。念のため)

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