第38話 強者 "Break Heresy"
■■まえがき■■
今回のBGMは"Cellador"の"Break Heresy"でお願いします!
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「オマエハ……?」
「貴様を殺しにきた者だよ」
レッドドラゴンを丸めて作ったバランスボールに座りながら、誰何に応える。
「ヨクモヤッテクレタモノダナ……」
「まぁそういうな。貴様らも散々やりちらかしてきただろ?」
周囲を睥睨しながら語るゴブリンキングに対して、僕はどこか居心地の悪さを感じる。
「エルフヲ滅ボスノガ順番ダッタハズナノダガナ……」
「そんな下らん順番のことなんか知らんな」
僕はゴブリンキングと会話をしながらも、どこか寒気を背筋から感じる……。
ジワリと染み込むような、生ぬるさといっても良いかもしれない。
なぜだろうか。
「まさか!」
僕はバランスボールから飛び降り、背後を窺う。
そして、尻に手をやったときだった。
「なんてことだ……」
ショートパンツがレッドドラゴンの血でグチャグチャになっていた。
手にはぬるりとした血液がまとわりつく。
これだけ少し触れた手が血塗れになるということは……パンツにまで血が染み込んでいるのは確実だ!
このせいで、さっきから不快感を感じていたのか!
「くそっ! 図ったな!」
「オ前ハ、何ガシタインダ?」
嘲笑うゴブリンキング。
「くそっ、卑劣なやつめ! 良くもやってくれたな! ぶっ殺してやる!」
僕が激怒すると、キングは両腕を横に竦める。
フゥ~、ヤレヤレダゼ。
そんな声が聞こえたように思った。
いちいちムカつくリアクションをするやつだ。
僕が怒りに任せて、両腕をあげて構えようとした刹那。
突。
妨。
スゥッと音も立たない忍び足からゴブリンキングが抜き身のように高速の右ジャブを僕の顔面に放った。
僕は何とか右拳を挟んでガードに成功する。
驚愕した。
なぜなら、まったく視ることができなかったからだ。
「み、見えない……!」
僕は、両腕を上げて更にガードを高くしようとする。
だが、既にゴブリンキングはバックステップを踏み重心を後ろに寄せ、右拳を下げていた。
薙。
キングの放ったのは右拳ではなかった。
下がった右拳に僕の意識が奪われた隙に、キングは左拳を横薙ぎに放つ。
すると、僕のガードが払われてしまい、下がってしまった。
「くっ、くそが!」
僕は下がった両腕を上げなおそうと、腰を低くして……!
バキィ!
がら空きになった顔の側面に、狙いすまされたキングの右拳が突き刺さった。
「ぐぅ、負けるか!」
僕は首の筋肉に全力を込め、キングの拳に耐えて身体を耐える。
そして反動を利用して、拳にヘッドバッドを打ち込んでキングを押し返す。
少しだけ、キングとの距離があいた。
僕は息を吸い込んで呼吸を整える。
こいつ……、強い!
「オ前……
満面の笑みを浮かべながらキングが言う。
まるで獲物を見つけたかのように……下卑た笑みだ。
「スグニ料理シテヤルヨ」
そう言うと、キングは左足を大きく踏み込んで、腕を伸ばしきった左ジャブを放ってきた。
ロングレンジからの高速パンチだ。
ドガッ!
腰を残したままキングが放った左拳を、僕は何とかガードすることができた。
「よし……。これでカウンターを……。馬鹿な!」
キングは重心を残して、ロングレンジを放ってきた。
その目的は、左腕を伸ばして距離を保ちながら、カウンターに備えてすぐにバックできるように体勢を保つことにあったのだ。
僕がカウンターを打つために姿勢を整えるころには。
ゴブリンキングは悠然とスタンスを保ちながら、リズムを作っていた。
しかも……距離が遠いッ!
カウンターを打てなかった僕は、間合いを詰めるために踏み出しながら攻め手を探る。
だが。
ゴブリンキングは瞬間的に小さくスウェーを入れて、僕の動きを牽制する。
僕は踏み込みの向きを変えようとするが、その動きに合わせて微細なスウェーを入れてくる。
あまりにも即座に反応されるため、僕は打つ手を探すことすらできない。
「まるで、動きを読まれているかのようだ!」
その無言のプレッシャーに負けそうになるが、なんとかガードをあげながら距離を詰めようとしたら。
ゴブリンキングの目線が僕と合った。
高い位置のパンチが来る!
僕はそう思い、ガードを高くする。
だが、ゴブリンキングは踏み込んで腰を一気に下げて左ボディジャブを放ったのだ。
「ぐほっ……!」
拳が僕の腹部に突き刺さる。
「なんで……僕の顔を狙ってきていたはずなのに!」
「マルデ子供ダナ」
まさか……、キングはパンチを放つときに目で確認しないのか?!!
見ることすらせずに攻撃をしてくるモンスターがいるなんて!
僕は苛立ちに任せて右拳を放つが、後ろ跳びをして回避行動をとっていたキングには当たらない。
こちらの行動を先読みしているとしか思えない。
僕の攻撃が稚拙すぎるということか?!!!
そして、ゴブリンキングは空振りをした僕の隙を見逃さなかった。
空振って硬直状態に陥っている僕に対して、一気に身体を密着させると、右ショートアッパーを顎下に打ってきたのだ。
「ぐごっ」
踏み込みの反動が載せられた右拳が、僕の喉に差し込まれる。
僕は勢いに押されて、後ろによろめく。
なんとか足をふんばってダウンを免れた僕は、再び前方を見据える。
そんな僕を、キングは不敵な笑みを浮かべながら見下ろしていた。
こいつ……強い! いや、強すぎる!
僕は、なぜゴブリンキングが四天王の一人に数えられるのか、初めて理解した。
■■あとがき■■
2021.07.01
昼飯で蕎麦食ってたら、顎からバキィ!みたいな音が。
どうやらストレスのあまり顎関節症になったようです。
寝る前に、湿布したり置き鍼したりしてるんですけど、なにか良い治療法ないですかね?
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