第59話 窮地 "Wallhalla"+"ナウシカ・レクイエム"
■■まえがき■■
今回のBGMは"Dark Moor"の"Walhalla"でお願いします!
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カウンターを狙って攻めあぐねている僕に対して、やつは言い放った。
「これぞ、神の見えざる手ってやつだな。ハハハッ。」
いまだ視界に捉えることのできない攻撃。
意識の外から放たれる打撃に、僕は為す術がない。
巧妙に打ちどころをずらしているだけなのに、ここまで差がつけられてしまうとは。
でも、僕はタフにくらいつくしかない。
残された手は少ない。
一撃でも当てて……窮鼠猫を噛まないといけないのだ。
僕はクリンチをしながら肩を押し付けて、身体を密着させる。
いままでは織り交ぜていなかった動きだったので、意表をついて接近することができた。
「ムッ」
距離をとられてしまえば、躱す余地を与えてしまう。
だから、密着した状態から逃げ場のない攻撃を繰り出す必要があるのだ。
「くらえ! チェストプレス!」
「ぐふっ」
ゼロ距離から放たれた、僕の両掌による寸勁がドューラスの肉体に突き刺さった!
始めてかもしれない有効打。
やっときたチャンスに攻撃を重ねるべく、さらに追い打ちをかける。
「アームカール!」
相手の体勢が崩れた今こそチャンスだ!
ガードを捨てた大振りの右フックを、僕は放った。
蹴り脚が浮いた。
全身を躍動させた僕のパンチがうなり声をあげる。
決まった!
たしかにそう思った。
だが。
大振りの右フックを掻い潜って、ドューラスの右ジャブが放たれた。
ザクッ。
喉元が切り裂かれて大量の血が噴き出た。
今度もまったく見えなかった……。
まるで僕の大振りの右フックが読まれていたかのような、的確なカウンターだ。
その切れ味鋭い一撃で、喉元深くまで切り裂かれてしまった……。
「な、なんで……」
ゴボゴボと血を泡立たせながら、なんとか僕は問いかけた。
「神の視点というやつだ。俯瞰的に見ることで、相手の次の動きを予測して次の挙動を見切ることが可能になる」
「か、神……?!」
僕は愕然とする。
存在の次元が違うということなのか。
しょせん、僕は人の子にすぎないのだから。
「あとは……そうだな。1発目の後の2発目はコンパクトに打たないと、カウンターの餌食になるだけだぞ。身をもって勉強できてよかったな。まぁ、これが最後になるわけだが。ハハハッ」
「く、くそっ……」
「この辺りで息の根を止めておかないと、手が付けられなくなるからな。思ったよりも長くなったが、そろそろ終わりにしようか」
そう言って、やつの右拳が僕に振り下ろされたのだった。
僕の視界が一気にブラックアウトした。
「……熱く……」
■■あとがき■■
2021.10.08
あとがきのBGMは"久石譲"さんの"ナウシカ・レクイエム"でお願いします!
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ランランララランランラン♪
「あ、あああ……」
絶望に打ちひしがれた筆者のうめき声が響く。
ランランラララン♪
「な、なんでこんなことに……」
今更気づいても、もう遅い。
ランランララランランラン♪
「こんなことになるのならば、AGA治療になど手を出すべきではなかった」
襲い掛かってくる。後悔の念。
せめて個人輸入でなく、クリニックに通っていれば。
ララララランランラン♪
「ババさまの言うことを信じたばかりにこんなことに……」
恨み言を言う資格などないことは十分承知の上だったはず。
そう。
筆者は、ババさま(どっかのAGAクリニックの院長)の予言(ネット記事)を信じてしまったがために、一気にスカってしまったのだ。
げに恐ろしきは初期脱毛。マジで抜けすぎてヤバい。
日々大きくなる頭頂部のミステリーサークルを同僚がどんな思いで見ているのだろうか。
そんなことを考えただけで、職場で統合失調症でも発症しそうなレベル。
もしくは、どっかの皇族みたいに複雑性PTSDとかになるかもしれん。
あのとき筆者が読んだネット記事にはたしかにこう書いてあった。
『その者黒き衣をまといてAGAの野に降り立つべし。失われた頭皮との絆を結びついに人々をフサフサの地にみちびかん』
だが、そんなことはなかった。
筆者がみちびかれたのは、フサフサの地ではなく……むしろツルツルの地であったのだよ。
そんなことを考えながら、筆者が喫煙所で煙草をふかしつつ、自らの禿げ散ら仮死状態について思い悩んでいたときのことだった。
ある男が声をかけてきた。
「安心してください」
「あ、アンタは……」
(つづく。私事でバタバタしていて更新遅くなりすみません。しかも待たせた割に短くてすみません)
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