第44話 王都の闇


 アフロヘアーになったことにショックを受けた僕は、その日の狩りをサボることにした。

 モチベーションが乗ってこないときはしょうがない。

 そう自分に言い聞かせる。


 いまいち気分が乗らないときはスパっと非日常に切り替えて、オフを満喫して仕切り直した方が有意義だ。

 僕はそう考えたのだった。


「王都でウィンドウショッピングでもするか」

 そう。

 随分と久しぶりだが、王都に足を運ぶことにしたのだ。


 王都といえばギルドだが……そういえば久しく納品をしていない……。

 前回ギルドで別れ際にモニカさんから「これからは、ちょくちょく顔を出して納品しなさいよ。まとめて納品されたら、解体の手配なんかも大変なのよ」とか言われたような……。

 もう一年ぐらい足を運んでいない気がする。


 思わず乳首が痛くなってきてしまうが、よくよく考えたら彼らも商売だ。

 いきなり数万匹のゴブリンの死体や、数百のゴブリン集落の物資を納入されたとしてもそんなに困らないはずだ。

 むしろ、"商売繁盛笹持ってこい!"といった感じかもしれない。


 インベントリの整理も兼ねて、ウィンドウショッピングの後にでも納品をしよう。

 そう決めると、僕は、久しぶりに夜の王都にしけこむことにしたのだった。


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 きらびやかな街灯に照らされ、行き交う人々とその笑顔が絶えることがない。

 大通りの店先には溢れんばかりの物が並ぶ。

 王国内でも突出した豊かさを誇る街。それが王都だ。


 だが、光が強ければ強いほど、闇も強くなる。


 大通りから少し横道に逸れた、薄暗い小道。

 僕は歩きながら、思わず感想を漏らしてしまった。


「これは随分と酷いな……」


 うなだれる年老いた乞食、不具になった身体を見せつける子供。

 まだ若い男性もいるが……両腕を喪失している。


 そんな乞食たちが路端に列をなして物乞いをしているのだ。

 モンスターや魔族との戦争が長く続いている国で行き場をなくした、社会の弱者。

 流れ流されて、最後に辿り着いた場所がここなのかもしれない。

 この薄暗い小道のように、彼らの残された人生も闇に染められているのだろうか。

 徐々に強くなっていく闇は彼らを飲み込んで、そして……。


 周囲には乞食たちの腐臭が漂い、僕を更に滅入らせる。

 身体欠損した後に、ろくに処置もしていないから壊死を起こしているのだろう。



 彼らを治癒することのできるのは……王国内だと高レベルの【聖騎士】ぐらいだ。

 【聖騎士】は【ヒール】などの白魔法を使用することができるからね。

 回復魔法を使えるのは【賢者】や【勇者】もいるわけだが、いずれもレア職なので望み薄だ。


 だが、いかに王都といえど、【聖騎士】が乞食の治療をするなどありえない。

 戦闘能力に長けた彼らは、最前線で戦い続けているのだから。


 えっ? 【白魔導士】?

 そもそも【白魔導士】の皆さんは低レベルなので、そんな大した回復魔法できないですよ。

 まともに回復できるほどに育つなんて土台無理です。弱すぎるから。





 普通ならね。



 幸い、僕はゴブリン達を狩り続けた結果、レベル51まで上がっている。

 しかも【白魔導士】の職業レベルは99だ。


「知ってしまった以上、見て見ぬふりはできないな」

 どうせ、いまあるMPが尽きるまでの偽善行為だ。

 やらない偽善より、やる偽善。

 僕の自己満足で一瞬でも救われる人がいるのならば……僕は汗をかこうと思う。

 

 僕は心のなかで割り切ってしまうと、道端でうずくまっている乞食たちに【ヒール】【キュア】【リフレッシュ】などの白魔法を無秩序に浴びせていく。


 突如として生えてきた四肢や、復調した体調に驚く乞食たち。

 僕は白魔法の大盤振る舞いをして……、そこらにいた乞食たちはみんな健常者になった。



 僕は、かつて乞食であった人たちの歓喜する声を後にして、ヴェガ商会の店舗に向かったのだった。

 

 

 




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