第43話 少年アフロ "Mirror Mirror"
■■まえがき■■
今回のBGMは"Blind Gardian"の"Mirror Mirror"でお願いします!
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レッドドラゴンで作ったバランスボールに腰かけながら、ゴブリンキングが去った方角を眺めていた。
しばらくすると僕の心中から戦闘の余韻も去り、毒気が抜けてきた。
僕はバランスボールに座りながら、無心になった。
月夜に照らされた湖面を、静かな風が凪いで、柔らかな波を立てる。
つい先ほどまで血生臭い戦いが繰り広げられたとは到底信じられないような、穏やかな時間だった。
僕は掌中でメダルをもてあそびながら、ゆったりとした時間を味わった。
どれだけの刻が過ぎただろうか。
遠くから足音が聞こえてきた。
おそらくエルフの集団がやってきたのだろう。
彼らに見つかると、何らかの説明を求められるかもしれない。
事後処理に付き合わされるのは嫌なので、早々に退散しよう。
「帰るか……」
僕は立ち上がると、手近な小屋に歩いていこうとした。
小屋のなかで【マッスル・ワープ】を使って、さっさと帰る。
そんなことを思いながら歩いていると、僕は背後から声をかけられた。
「これは、キミがやったのか?!」
周囲の惨状を見ながら、その人物は問うてくる。
「……」
僕は無言でうなずくと、そのまま小屋に向かおうとする。
「ま、待ってくれ! キミは人族だろう?! どうか名前だけでも教えてくれ!」
「タナカだ」
偽名を違和感なく名乗りながら、声の主に向き直る。
そこには、小柄なエルフの少女が立っていた。
透き通るような銀髪に、髪の間から伸びる尖った耳。
その白磁のような頬はどこか赤みを帯びている。きっと、ここに駆けつけてくるまでに相当な距離を走ったのだろう。
動きやすい身軽な服装をして、腰に小剣をさしている。エルフには珍しい剣士なのかもしれない。
透き通るような翠眼に見つめられながら、僕は踵をかえす。
そうして、小屋に入って姿を隠すと、【マッスル・ワープ】をつかって帰還したのだった。
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「朝刊でーす」
いつものように庭先で寝ていると、新聞配達員が郵便受けに朝刊を入れていった。
最近は、夜通し狩りをして庭先で寝るのもすっかり慣れた。
母からは「家のベッドで寝ているはずなのに……どれだけ寝相が悪いのかしら」と心配されているようだが、あまり気にしていない。
僕は地面から身体を起こした。
そして、郵便受けから朝刊を取り出して、見出しにさっと目を通してみる。
―― エルフ森林国と国交正常化に向けた交渉へ。対魔同盟への布石か ――
―― 最大功労者として王都ギルドのギルドマスターが受勲へ ――
―― 物流新時代到来か。ゴブリンと山賊の激減を受け、商人による経済交流が活発化。王国軍への物資補給も安定化の兆し ――
「随分と明るいニュースが多いな……。良いことだ」
そんなことを呟きながら、僕は紙面をめくる。
すると、ある記事の見出しが視界に飛び込んできた。
―― ゴブリンに変異種か。王立学院の専門家は「ホモゴブリン」と命名 ――
「なになに……」
僕は、記事の中に読み進める。
―― 最近紙面をにぎわしてきていた、山賊を対象として襲撃するゴブリンが、とうとう「ホモゴブリン」と命名された。従来種とは大きく異なり、囚われていた女性を逃がすなどの奇異行動をとり…… ――
「始まったか……」
僕がゴブリン達に下した命令。
それは、女性ではなく男性(しかも山賊などの害悪となるものに限る)を襲えというものだった。
さすがのゴブリンといえど、男性を苗床にすることなどできないはずだ。
エロゲー準拠のクソ世界観において、ゴブリンはとてつもない危険性を孕んだモンスターだ。
あわよくば、将来的にクロエに害をなしかねない人間を間引きつつ、ゴブリンを絶滅に追い込む。そんな緻密な計算に基づいた、僕の命令だった。
僕は記事を読み進める。
―― ホモゴブリンから解放されたトーマスさん(仮名・36)は、本紙記者にその恐怖についてこう語った。「何か月もの間、幾度となくゴブリンに凌辱されたんです! そして、恐ろしいことに何匹もゴブリンを産まされ…… ――
?
あれっ?
えっ。
男の娘を相手にしても、ゴブリンって孕ませることができるの?
まじ?
僕は不覚にも肛門の筋肉がキュウッと締まるようになりながら、更に記事を読み進め……
「何を読んでるの?」
「う、うわあああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」
背後から突如として現れたクロエの目に留まらないように、瞬時にして朝刊を破り捨てる。
「ど、どうしたの?!」
そんな僕に対して、クロエは驚いた表情を浮かべる。
良かった……。
どんな記事を読んでいたのかバレてなさそうだ……!
危うく道を踏み外すところだったが、クロエのおかげで回避することができた……!
「ありがとう! ありがとう!」
あらすじの全変更を未然に防いでくれたクロエに、僕は全力で感謝する。
「あれ? そういえば、ワイト、その髪型どうしたの?」
クロエは、突然質問を投げかけてきた。
どこかとろんとした目で僕を見つめていたクロエは、その血色のいい顔を林檎のように赤くして、急にうつむようにして目線を外す。
「髪型……?」
僕は髪に手をやる。
手応えがあるが、たしかにいつものようなサラサラ感がない。
むしろ、どちらかといえばゴワゴワしている。
僕は、庭の池に自分の顔を映してみた。
その水面には、アフロヘアーをした僕が映っていた。
「ど、どどどどどど、どういうことだ?!」
僕の頭を、レッドドラゴンと戦った際に幾度となく喰らった【ヒートブレス】のことがよぎった。
「ま、まさか……?!」
血の気が引いてしまう。
【ヒートブレス】を喰らいすぎて、アフロヘアーになってしまった?
そんなまさか……。
僕は哭いた。
■■あとがき■■
2021.07.18
「おかしい……」
洗面台の鏡を見ながら、筆者は思わずこぼしてしまう。
どこか生え際が後退してきたような。
いや、これは既に後退どころでは済まないかもしれない。
全軍が戦略的撤退をしているレベルだ。
そんな厳しい現実をつきつけられているわけだが、どうしても直視できない。
我が身に起こったことではないように感じてしまう。
いたたまれなくなった筆者は、次のアクションを起こした。
手元にあった手鏡をとると、今度は頭頂部が見えるように手鏡の角度を調整したのだ。
洗面台の鏡にうつるのは非情な現実だった。
「やはり……」
最近、髪にこしがなくなったことに加え、つむじに手をやったときに違和感を覚えていたのだが……。
「悪夢だ……」
(つづく。モデルナ社のワクチン1回目射ったら、2日ほど少し体調が悪くなってました。すみません。あ、あとAmazon Musicですがプレイリストの名称で検索できないようなので、↓に共有リンクを置いておきます)
https://music.amazon.co.jp/user-playlists/79a1ccb2b9954d96b28dcd21e3cb79a1jajp?ref=dm_sh_yNQos0I3gTIqLx7hqdLlA12iD
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