第41話 油断と決断 "Burn Me Out" + "アンインストール"

■■まえがき■■

 今回のBGMは"Be The Wolf"の"Burn Me Out"でお願いします!


------------------------


「くらえ! プレスダウン!」


 僕は全体重と全膂力を載せて、ゴブリンキングを地面に打ち下ろした。

 僕の上腕三頭筋が唸るような音をたてる。


 スローになった世界のなかで、ゴブリンキングが驚きに目を開いたのが分かった。


 見たか!

 これが僕の本気だ!


 隕石が落下したかのような衝撃が、あたり一面を襲った。





 その瞬間。

 僕は、確実に勝利を確信してしまった。

 だから、またしても油断をしてしまったのだ。

 

 もう決着がついたと。

 これが決定的な一撃だと。

 キングをやっと倒すことができたと。

 そう思ってしまったのだ。








 僕はスローになった世界のなかで、再びキングが笑みを浮かべたのが分かった。

 それと同時に、キングは無事だった左腕を畳むようにして、僕の身体に密着させた。


 一体、何をするつもりだ……ッ?!!


 

 


 穿。




 キングは、身体を密着させた状態から左ショートアッパーを放ったのだ。

 ゼロ距離からの轟音を響かせる砲弾のような殴り上げだった。


 キングは僕のプレスダウンの威力を左足で受け止めると、その反動を利用して決死の一撃を打ち込んできたのだ。


 爆発的な勢いを伴って、キングの拳が僕の喉元に突き刺さった。



「ぐはぁッ!」

 プレスダウンの威力がそのままカウンターとして、僕に返ってきた。

 いままでに感じたことなどない、僕の筋肉を打ち破るような破壊的暴力。

 それがパイルバンカーの如く射出されて、僕の首に襲い掛かったのだ。


 

 ブチブチブチィッ……!


 僕の首の筋繊維が音を立てて千切れようとする。


 視界が一気に赤く染まった。

 きっと首の表皮と血管が切断され、観血してしまっているのだろう。

 骨や筋肉がまだ切断されていないのが救いか。


 僕は必死になって【ヒール】を連打するが、それ以上のダメージが僕の首を討ち落とそうとしている。

 

 く、首が斬り落とされてしまいそうだ……!!

 僕は胸鎖乳突筋と僧帽筋に力を込めて、なんとかしのぐ。

 だが、その耐え忍んでいるわずかな時間に、夥しい出血のせいで僕の意識が失われそうになってしまう。

 

 目がかすんでしまう。

 だが、僕がここで負けてしまえば……死んでしまえば、クロエは一体どんな人生を歩むことになるのだろうか。

 きっと、この腐りきった世界で……汚辱にまみれて……違う!

 そうじゃない!

 僕は彼女を守ると決めたんだ!




「こんなので負けてられるかぁあああああ!!!!」


 こうなったら……、裏のワークアウトを繰り出すしかない!!!

 僕は決断した。




 挟。




「くらえ!ネックフレクション!!!!」

 僕は、胸鎖乳突筋に全力をこめて凄まじい勢いで顎をひいた。

 顎が暴竜のごとくゴブリンキングの左拳に襲いかかり……僕の胸板と挟みこんで圧迫する。


 

 ボキボキグシャッ!!!

 


 ゴブリンキングの左拳が破砕された。


 だが、僕はもう油断はしない。

 ここで此奴を必ず倒しきる!

 同じ過ちはもう繰り返さない!




 絞。




「これで終わりだッ! チェストプレス!」 

 キングをホールドしていた両腕に力を込めて、僕は全身全霊をこめて締め上げる!

 大胸筋が悲鳴をあげているが知ったことか!

 まるで獰猛な虎を押さえ込んでいるかのような抵抗を受けるが、手を緩めるなど絶対にありえない!


「ギィイィィヤアアアアーーーー!!!」

 あまりの圧力にキングが初めて悲鳴をあげた。

 もはや、その顔には余裕の笑みなどどこにもなかった。

 やっと追い込むことができたのかもしれない。



 ミシミシ……。



 だが、僕は手加減はしない!

 絶対に! クロエを守るんだ!


「壊れるのか、壊れないのか? どっちなんだい?!!」

 僕はキングに問いかけながらも、力を緩めない。

 ここで極めきるしかない!



 ミシィ……ボキボキボキッ!!!


 そして、とうとうキングの骨格が耐えきれずに大きな音を立てながら崩れたのだった。









■■あとがき■■

 あとがきのBGMは"石川智晶"さんの"アンインストール"でお願いします!


------------------------


 くそっ。

 なんだこの「管理者を対象とした新たな人事評価基準」とかいうクソ基準はッ……!

 「会社全体への革新的な影響」でA評価、「部署をまたがる大きな実績」でB評価。一方、「現状改善」だとD評価だと……!

 この基準だと……激増する粒々の業務を少人数(頭数だけは多い)で担当している筆者は……実績を捏造しない限りD評価じゃないか。

 

 この会社、業務に穴だらけで現状維持すらまともにできずに事故りまくっているのに……業務改善してもD評価なのかよ!

 なぜ今になって、経営畑とか人事畑でパワポ職人してたらA評価になるような基準を定めようとするんだ……ッ! どこまで愚かになれば気が済むんだ!


 筆者が苛立ちのあまりプリンターやキャビネットの破壊に走ろうとしたときだった。


「あの~テリードリームさん、そろそろ対話お願いします」

 Lちゃんが声をかけてきた。


 あまりの苛立ちに我を忘れてしまっていたが……そういえばLちゃんとの対話の時間だった。

 うっかり、彼女に対して下ネタを言ったりしないように注意しないとな。

 

 筆者は樹を持ち直すと、会議室に移動してLちゃんと対話を始めた。

 あいかわらずのマスク美人っぷりに思わずテンションが上がってしまう。


「今日は突然時間をもらってすみませんね。少し仕事の負担が増えているかもしれないので、対話をさせていただこうと思いました」

「いえいえ」

「①業務については件数がかなり増えているそうですね。これについては業務フローの見直しを考えています。当方も個別案件の対応に入りますし、切り出せるところは派遣社員に切り出していきます。これで業務負荷がかなり軽くなると思います。

 次に、②業務ですが……」

(中略)

「ありがとうございます。最近ずっと悩んでいたので、だいぶ気持ちが楽になりました」

「いえいえ、このぐらいなら遠慮なく相談してください。担当者が三時間悩む問題も、上位役職と相談すれば三分ぐらいで解決できるものです。私も最近は暇をしていますので、遠慮なく声をかけてください。少し忙しそうにしていても気にしないでください」


 あとは……。

 よし、彼女の人生のために、恐れを知らない戦士のように少し踏み込もう。


「私もいままでに色々な人からメンタルヘルスについて相談を受けてきています。そういう役回りではないのですが、なぜか同僚から相談されることが多いので、それなりに理解はあるので安心してください。

 私自身も、フロア中に響き渡る罵声を連日浴びせられたり、三時間ほど立たされて延々と説教され続けるような激烈なパワハラを度重なって受けた際には非常にツライ思いをしました。そうした経験者として一言だけ助言します。  

 明日通院する予定だそうですが、ああいうクリニックはかなりの薬を処方してきます。医者も商売でやっていますし、処方される薬のなかにはあまり良くないものもあります。どうか医者の言うことを間に受けて、薬を飲み過ぎないようにしてください。

 親御さんが大事に育てたLさんを私たち会社は預かっています。私たち会社には安全に配慮する義務がありますので、どうかあまり真剣に思い込みすぎないようにしてください」

「ありがとうございます……」


 よし。

 あとはいよいよ本題だな。


「あとは……、Jさんと最近お仕事をされる機会があるようですが、どうですか。私が席にいない日中。それ以外にも、超勤時間や時間外などに何か気になることはありましたか」

「③業務で丸投げをされて……。他部署との調整なども一般職なのにさせられました。しかも、それだけでなく、メールの案文を私に確認してくれと……。なぜ、上位役職者のメール文面を主担当でもない私がチェックしないといけないのかと……。悔しいです」

「そういうことですか。率直に申し上げると、Jさんはアホなんです。人間よりもチンパンジーの方が近いと言って差支えないレベルです。おそらく、日能●とかに通っている小学六年生を連れてきて仕事をさせた方が彼よりもパフォーマンスを上げるはずです。

 彼のあまりの所業がご負担になっているようですので、今後は、Jさんと話をする必要はありません。必ず私を間に挟んで、私を介して話をするようにしてください。

 私も猿と会話をするのは得意ではありませんが……当社には類人猿がたくさんいますので猿回しを多少は心得ているつもりです」


 よかった……!

 セクハ●は無かった! 本当に良かった……!

 あとで、部付部長に対話記録を送れば完了だぜ!



 翌日のこと。

 部付部長が筆者に珍しく話しかけてきた。


「Lさんが今日の通院をキャンセルして、在宅勤務をするそうですよ」

「ほ、本当ですか!?」

 筆者との対話が功を奏したのかもしれない。

 きっと……彼女は、職場からストレス要因がなくなったと判断したのだ!

 すごくない? 給料増えないし、誰も評価してくれないけど!

 

「さすがの手腕ですね」

「いえいえ。今回はたまたまです」

「謙遜しなくていいですよ。今回は本当に助かりました。ですから……





 Lちゃんを含む八人とJさんを……テリードリームさんに業務面で指揮していただこうと思います」




(;´゚д゚`) リカイデキナイ...




 えっ。どういうこと。




 部付部長は何を言った?

 理解が追い付かない……。

 さっきから、滝のように汗が浮き上がってくる。

 ワイシャツがべとべとだ。きっと脇のあたりが変色しているはず。


 えっと、筆者は個人事業主みたいに自分だけしかできない仕事やってるんですけど。

 それだけで既に三人分は働いているんですが。


「すみません。突然のことでちょっと理解が……。彼らの業務は、仕事のできない方の名ばかり管理職さんが指揮されているはずですよね?」

「やはり、こういうことに長けた人間に任せた方がよいと思ってね。幸い、テリードリームさんは業務への深い造詣がある。他部署との荒事もできる。

 仕事のできない方の名ばかり管理職さんに任せていましたが、彼は自分の手作業に終始して部下をコントロールしないばかりか、増員を陳情してくるなど……なかなかに任せきれないと感じているのですよ」


 あまりのプレッシャーに筆者は、こう応えざるをえなかった。

「つ、謹んでお受けします……ッ」



 そうして、筆者は、管理職となってから十日も経たずしてメンヘラ(?)とセク●ラ野郎を含めた大人数パーティーのリーダーとなったのだった。



 やばい。どうしよう。

 なんでこんな不良債権処理のようなことをするはめに……?

 この部署から異動アンインストールした方がよいのか?

 それとも、いっそのこと転職アンインストールした方が?

 やばい。勢いあまって人生を卒業アンインストールしてしまいそうだ……。

 いや、そこまで早まらなくても、ひとまずは仏門に下って出家アンインストールをすれば……?

 ああ考え込みすぎて、ストレスがマッハだから抜毛アンインストールが……!

 とりあえず給料増やしてくれ……。

 あと、仕事中にカクヨム読めないじゃん……。サボりてぇ。


 筆者は、そんな思いを胸に抱いたのだった。







 だが、まだ筆者は知らなかった。

 人事ネタの爆弾が、まだ複数埋まっていることを。

 そして、それらの臨界が近づいていることを……!



 つづく。

 (※あとがきを読んでイイハナシダナー( ;∀;)と思った方は、コメ付レビューをお願いします)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る