第5話 決意



 「ぼくの幼馴染がドンドン寝取られていく」


 どうやら、僕は、そんな低俗極まりないタイトルのゲームの世界にいるらしい……。


 ゲームとは"タナカ"の住んでいた世界では、テレビにゲーム機をつないで遊ぶ一般的な娯楽だ。

 僕は吸収した"タナカ"の記憶のおかげで、すんなり受け入れることができる。

 だが、この世界の人に話したところで、そんな娯楽の存在を理解してもらうことなど不可能だろう。


 そんなゲームだが、様々なジャンルに分類されるようだ。

 僕が生きているこのゲームは"NTR系エロゲー"と呼ばれるジャンルに属するもののようだ。

 このジャンルは、かつては特殊な性癖を有する人にだけ嗜まれていたそうだが、最近はだいぶ市民権を得て広く親しまれるようになってきているらしい。


 ……世も末だ……。

 ”タナカ”が元いた世界は、近いうちに滅ぶんじゃないか?


 なんでも、愛する人を寝取られる(NTRなどと表現することもあるそうだ)ことで、そのゲームで遊んでいるプレイヤーは倒錯した性欲求を充たして楽しむそうだ。

 下劣にもほどがある。




 ……なんて……。



 ……なんて、禍々しいんだ!!




 僕にはサッパリ理解できない腐った思考回路。


 許せない。

 そんな愚劣蒙昧な性癖など許せるものか!



 だが……。

 もし、"タナカ"の記憶が確かならば……。


 僕とクロエは十五歳で成人を迎えた年に、二人で旅に出ることになる。


 【勇者】と【白魔導士】の二人だけで田舎村を出発し、モンスターとの戦いを続けながら旅を続け、仲間を増やし、成長し、そしてラスボスの魔王を倒してゲームクリアという流れだ。


 おそらくは、女神のいう"定められた運命"を実現することとは、このシナリオに沿うことなのだろう。

 きっと、彼女は「十五歳の"旅立ちの刻"までに、大人しくしておけ」という趣旨で僕にトドメの発言をしたのだろうけれど……。




 僕は、この"定められた運命"には従わない。

 全力で抗おうと思う。



 なぜなら、もしゲームのシナリオそのままで進んでしまえば、僕は"主人公の想い人"になるだけでなく、"寝取られ男"になってしまうからだ。



 ゲームの設定と同様、僕は最弱の【白魔導士】だ。


 僕が打たれ弱い【白魔導士】だからモンスターに容易く殺されてしまい、心が折れたクロエがモンスターの苗床にされてしまうことや。

 僕が人質にとられてしまい、僕の目の前で悪漢に彼女が犯されるなんてことも……!


 僕は、"タナカ"の記憶にあるCGギャラリーの悍ましい光景を思い出し、戦慄を覚えてしまう。

 

 ……そして……!


 【白魔導士】は【勇者】と結ばれることは決してない。

 お互いにプラトニックな思いを抱いているうちに、周囲の下種どもの魔の手が次々と襲ってくるのだ……。

 だが、最大の問題は、原作のゲームシステムだろう。


 原作では、おもに戦闘パートとシナリオパートが存在する。

 

 戦闘パートでは、【白魔導士】が出陣するのは初期の仲間が少ないときだけだ。

 打たれ弱い"戦闘に出陣して殺されたらゲームオーバー"なキャラを、わざわざ出す奴はいない。上位互換の【勇者】とか【聖騎士】とかがいるしな。

 せいぜい【勇者】の苗床CGを回収するために出されるのが【白魔導士】。


 そんな戦闘パートで活躍すると【勇者】の好感度があがり、次のシナリオパートでNTRかつムフフなシーンがあるわけだが……。


 そもそも戦闘パートで出陣していない僕。

 シナリオパートの恩恵にあずかることなど皆無だ。

 仮に出陣したとしても、「回復は貢献にはカウントしない」というクソ仕様なので僕の活躍が評価されることなどありえないわけだ。


 だから、僕はクロエと決して結ばれることはない……。



 ……ふざけるな!!!

 僕が大好きなクロエを、他の男になんて渡すものか!

 

 僕は……絶対に強くなる!

 クロエと結ばれるために!!


 




 

■■あとがき■■

2021.03.22

 筆者は、ぶっちゃけエロゲーより、エロ漫画の方が好きです。

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