第2話 すれ違う空間
私が小学生のある時期、近所にAという友人がいました。
私とAは、長方形の長い辺の反対側に家がありました。
その長方形をグルリと回る道を通って、お互いの家に行くには、10分強かかりました。
長方形には、細い道が二本通っており、近い方なら3分ほど、もう一本の道なら5分ほどでいくことができました。
私たちは、その細い道を通って行き来していました。
その日、Aと私は、私の家の前の道で待ち合わせをして、別の場所へいき、他の友達と一緒に遊ぶ約束になっていました。
それで、私は、両方の細い道も見えるところで、Aが来るのを待っていました。
しかし、いくら待ってもAが来ません。
私は何度も、両方の道の方へ走って、向こうを覗き込みましたが、Aの姿は見えません。
段々と不安な気持ちになってきました。
もしかしたら、お腹が痛くなったのかもしれない。
もしかしたら、途中で転んでるのかもしれない。
私は、両方の道を覗いた後、家まで駆け戻り、Aの家に電話をしてみました。
しかし、誰も出ません。
どうしよう?
もしかしたら、丁度家を出たところかもしれないと思い、また待ち合わせ場所まで戻りました。
でも、来ません。
向こうで待っている友達も、首を長くして待っているに違いない。
そう思った瞬間、もしかしたら、ここで待ち合わせというのは勘違いで、向こうで合流する約束だったかもしれない、という気がしてきました。
私は左右の道を見に行って、Aの姿がないことを確かめると、別の友達が待っている場所へ走って行きました。
結局、Aは来ていませんでした。
翌日、登校すると、
「待ち合わせ場所に行ったのに、ずっと無視して、一人で遊びに行った」
Aがなじるように言ってきましたが、幸い、私が一人で道端に立っているのを見た子が何人かおり、その子たちが、私を擁護してくれました。
ところが、その中に声の大きい元気な子がいたせいで、他の子たちも参戦して、なんだか事が大きくなって、帰りのh mで話し合われる事態になってしまいました。
お互い気まずくなり、そこからAと疎遠になりました。
それは思い出の一つとして、終わるはずだったのです。
大学生になった頃に、Aが親しくしていたBと、偶然、再会しました。
その時のことが話題になったのですが、その中で
「麒麟ちゃんが可愛いバッグを持っていたので、見せてと何度言っても、無視して、挙句に家に帰って置いてきた。」
と、当時Aが言っていた、と言うのです。
その「可愛いバッグ」は、前の晩、私のバッグの紐が切れ、母が縫い直すのに、姉から貸してもらったもので、結局、汚したら悪いと思い、一旦帰った時に、置いて出たのです。
つまり、Aのいう通り、私は持って出たバッグを家に置いてきました。
しかも、その「可愛いバッグ」は、母の手作りで、姉は小物入れとして使っており、自室にいつも置いていました。
そして、そのバッグを借りたのは、その日だけですし、姉とはすこし歳が離れているせいで、Aは面識がありませんでした。
ですから、Aは、そのバッグを見た事がないはずだったのです。
なのにAは、そのバッグの具体的な形状、近くに寄らないとわからない特徴まで、言い当てていました。
しかし、私は、本当にAの姿を見ていませんし、前を通りかかった子たちも、私が一人で立っていたと言っていました。
Aは、すぐそばの電柱にでも隠れて、私の行動を見ていたということでしょうか。
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