第26話 見えない同居人

これは現在進行形の話です。


友人の家は2020年春のコロナ対策の緊急事態宣言より、在宅になったお母さん、勤務が続いているお父さん、それからリモートと出社が半々のAの3人暮らしです。


Aの家は南向きに玄関があり、入って右手にリビングの出入り口があります。

そして玄関を入ってそのまま真っ直ぐ北側にいくと右手にリビングと同じスペースにあるオープンキッチンに入る扉があります。そこでUターンする形で、二階にあがる階段があります。

玄関から入って突き当たりの所は洗面所とお風呂になっており、キッチン側から入るようになっているそうです。

位置関係をご理解頂けたでしょうか……


さてソレに気がついた最初の日の話です。


その日はもう季節が夏になった頃でした。

お母さんはいつものように、二階で仕事をしていました。

お父さんはその日は休みで、リビングの扉を全開にしてのんびりと過ごしていたそうです。

18時を過ぎた頃だったでしょうか、お父さんがテレビを見ていると、玄関の扉が開く音がして、視界の端を奥へ入って行く人影があったと言います。

(トイレに急いで行ったのかな?挨拶もできないほど慌てるなんて、小さい子みたいだな)

Aの家では、休みの日は夕食をお父さんが作るそうで、それを機にお父さんは苦笑しながら立ち上がり夕食を作り始めました。


夕食ができて、二階にいるはずの二人に声をかけましたが、降りてきたのはお母さんだけで、何処を探してもAはいませんでした。


Aの家の鍵は特殊な形をしており、複製ができないそうなので、他の人が入ってくる可能性は極めて低いそうです。

また普段家にだれもいない事が多いため、玄関には監視カメラがあり、セ○ムにも入っているそうです。

そしてそのカメラには、誰も映ってなかったので、「勘違いしてしもうたわ」とお父さんとお母さんは笑いました。


それからしばらくした日のことです。


お母さんの仕事部屋は、二階の階段の上がったところにあり、Aの部屋からも両親たちの部屋からも、お母さんの仕事部屋の前を通って階段を降りる形になっているそうです。


ある日おかあさんは仕事が一区切りついたので、オヤツでもたべようかなと下に降りていきました。

そういえば上に上がってきて奥の方へ歩いていった物音がしたのを思い出し、Aに声をかけましたが、だれもいませんでした。


お父さんの話を思い出し、ちょっといやな気持ちになりましたが、仕事中だったので気のせいだったのかなと思ったそうです。


しかしそれから頻繁に家の中で足音や人の気配がすることに、Aの家族は気がつきました。


Aが洗面所で顔を洗っている時に、キッチンで物音がするので「お母さん」と声をかけても返事がなく、不審に思って顔を出すと誰もいなかったそうです。


またお母さんが部屋にいると、玄関が開いて誰かが帰宅した音がしたので降りていくと誰もいなかったり、誰かが玄関を入ってきてしばらくすると出ていく音がして、カメラを確認しても誰も出入りしていなかったりしたそうです。

また夜遅くに仕事を終えて、さてトイレに行って寝ようと思っていると、誰かが階段を降りていく音がしたそうです。

トイレかなと思い待っていても上がってくる音がしないので、階下へ降りると誰もいなかった……


まるでもう一人見えない家族がいて、一緒に生活をしているような感じなのだそうです。


Aの家はAが小学生の時に親戚から土地を買って建てた家で、今までにそんな事があった記憶がないといいます。

「でももしかしたら、こんなに家に居たことがないから気がつかなかっただけかもしれない」


Aの周りで亡くなっているのは曽祖父母くらいで、ペットも飼った事がありません。


今の所悪いことは、起こっていないのが幸いです。

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