第25話 警告する影
昔、昔のことです。まだスマホとか携帯とかない昭和の時代の話です。
先輩の叔父さんは写真を撮るのが趣味だったそうです。
その日も撮った写真の整理をしていましたが、ふとある一枚の写真に手が止まりました。
それは大きな木の前で小学生の娘たちを撮したものでしたが、その木の陰影が非常に厳しい顔をした人のように見えたそうです。
しかし木目が人の目のように見えるとか、影が人のように見えるという錯覚はありがちなので、ちょっと嫌だなとは思いましたが、その時はそこまで気にしなかったそうです。
数日後叔父さんは娘が交通事故に遭うという夢を見て、汗びっしょりで飛び起きました。
非常にリアルな夢で、しばらく鼓動が早く打ち、嫌な気分が抜けませんでした。叔父さんはふと気になって、先日の写真を見直しました。
するとその厳しい顔をした影が益々濃くなり、はっきりとしてきたような気がしました。
気のせいかもしれませんが、何しろ愛娘たちのことですから、叔父さんは妻である叔母さんに相談したそうです。
それを聞いた叔母さんも馬鹿馬鹿しいとは思ったそうですが、気をつけるに越したことはないので、娘たちに交通事故には気をつけるように言いました。
しかし子煩悩な叔父さんは、日が経つほどにどうにもこうにも居たたまれない焦燥を募らせ、時々写真を取り出しては、その影を見てため息をつくようになりました。
好きなお酒も慎み、出来るだけ早く帰宅するようにし、休みの日には家の周りの交通の注意ポイントを、娘たちから嫌がられながら教えたりしていたそうです。
そんなある日のことです。
叔父さんは細い道の十字路の所で「ここは危ないから、娘たちに気をつけるように言わなければ」と思い、足を止めて左右を確認しました。
その途端、凄いスピードで自動車が曲がってきて、叔父さんはひっくり返り尻餅をつきました。
たまたま店先に立っていた人が、慌てて飛んできて言いました。
「あんた、よう立ち止まりはりましたな!そのまんま進んではったら、さっきの車に轢かれてたんちがいますか?」
その後、叔父さんが家に帰って写真を見ると、木の影の人は消えていました。
木の陰が警告していたのは、娘ではなく叔父さん本人だったのですね。
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