第24話 神々の夜

大学時代、恐らく講師の先生の趣味で、とある祭を観てレポートを提出するというのがありました。


何しろ初冬の非常に忙しい時期で、徹夜明けで朦朧として行ったために、はっきりとした記憶がないのですが、恐らく、多分、春日大社かなんかのなんぞやかで、前日から徹夜でイベントがあるという?

今から思えば、もっとしっかり観とけば……と思うような、壮麗で素晴らしい神事でした。


そんなこんなで、適当にレポートを書き、提出をした後のことでした。


「なんやええ感じのコスプレ・イベントやったなぁ!」


「え……」

大学のカフェテリアで、一緒にテーブルを囲んでいた友人たちの多くは、流石に言葉を失うか、苦笑をするかしていました。

盛り下がった雰囲気に慌てたのか。

「いや、マジ。なっ?」

彼ことAはとなりにいた友人に、声をかけました。 

その友人が口を開くよりも早く、皆口々に


「いやいや。さすがにコスとは違うやろ」

「お前、レポートにコスとか、書かへんやったやろな。一発で落とされるで?」


「いや、違うらしいねん」

Aの側にいた彼の友人が、困ったように口を挟みました。


その郊外授業は、日が落ちる頃から現地にゆるく集まり、近隣の社寺を巡ったり、屋台を冷やかしたりしながら祭を鑑賞するというものでした。


静かに夜は更けていきます。


ひたすら広がる暗闇


爆ぜる松明の音


ゆらゆらと揺れる灯影


余韻を引いて闇に消える龍笛の音。


その中でいにしえの装束で、ゆったりと舞う舞人


醸し出される幽玄さは、どこか不思議と懐かしく、厳かで心に染み入るものがあり、まるでそこだけ時間が平安の時代に巻き戻っているようでした。



しかし、いかんせん、そのような格調高い芸術を二十歳前後の若者が興味深く、長時間鑑賞し続けることが出来るか、というとなかなか厳しいものがあります。


私たちは最初の頃こそ感動の面持ちで観ていましたが、陽が落ち時間の経過と共に気温が下がるにつれ、だんだんといつ帰れんねん?という気持ちになっていました。

Aも早よ帰りたいなぁと思いながら、目の前で行われている舞をぼーっと見ていたそうです。


その時、対面の人垣の中に白い衣を頭から被った女性がいることに気がつきました。

なかなか遠い位置でしたが、まるでそこだけスポットライトが当たっているように、光り輝いて見えました。


顔こそよく見えませんが、見たこともないほど美しい女性であることが、はっきりと分かったそうです。


Aが口をポカンと開けて見入っていることに気がついたその人は、少し笑ったように見えました。そして、ゆっくりと人垣から離れていきます。その人が動き出すと、まるで松明の火がそれに呼応するように揺らめき、お付きらしい子供たちの姿を照らしました。


気がつくとあたりには、いにしえの様々な衣装を着た人々が混じっており、彼らを見るとAは意識していないのに、鳥肌が立つほど感動していたそうです。


Aは先程の女性のことが気になり、後を追いかけて行きたかったのですが、「随時解散やて。帰るで」と周囲の友人たちに声をかけられて、名残惜しいまま帰ってきたそうなのです。


それを聞いて、私たちは困惑しました。


私たちは様々な場所から、その舞台を取り囲んでいましたが、誰一人として、そんな格好をした人を見た人はいなかったのです。


あの人たちは誰で、何故Aだけが見ることが出来たのでしょうか。


奈良のそのお祭りに行かれ、お会いできた方がおられましたら、お知らせください。


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