第65話 その道の向こう

 当時大学生だったAさんとBさんは、長期休暇を利用して、自転車でツーリングに出掛けていました。


元々はその広い丘陵地を迂回する予定だったそうなのですが、立ち寄った麓の店で、「せっかくここまで来たんだから、あそこの景色を見て、名物の料理を食べて行きなさいよ」と勧められて、山間のその場所に行ってみることにしたそうです。


2人は丘陵地を登り、それらを堪能した後、近道を使って麓の迂回コースに戻ることにしました。


 山を降る道に入った頃、陽はまだ西の空にあって、オレンジ色を帯びた光があたりを明るく照らしていました。

しかししばらく進んで竹や細い木々が生えている林道に差し掛かると、すでに夜の闇の紺色の濃淡に染まって、視界は良いとは言えない状況になっていました。


「こっちでいいよな?」

Aさんが先導をしていたBさんに問いかけたのは、その道は街灯などもなく、分岐点が多かったからでした。

当時はまだスマホなどなく、自分たちで、紙の地図を確認するしかありません。2人は、対向車をかわす為の道の窪みに自転車を寄せると、携帯用の小さな懐中電灯で照らして、地図を確認しました。

「進んでる方角は合ってる。」

Bさんは磁石を見ながら言いました。しかし本当に正しい道なのか、一抹の不安はありました。


その時、一台の車がAさんたちを追い越して走って行きました。

「あの車に付いていけばいんじゃね?」

少なくとも、行き止まりに迷い込むことはないだろう。

2人はペダルを踏み、その車の赤いテールランプを追いかけました。


幸いなことにその白い乗用車はスピードを出しておらず、2人は難なく後ろを付いて走ることが出来ました。


道はアップダウンを繰り返しつつ、ゆっくりと確実に麓に近づいていきます。

あたりが次第に闇に閉ざされていく中、前を進む車の明るいライトは心強く、また車の動きで道の状態も推測でき、後を走る選択は正しかったように思えました。

2人は車に注視して、走り続けました。


(気温が下がってきた)

突然、ゾクリとした寒さを感じたAさんは、少しだけ開けていた上着の襟元のジッパーを引き上げようとしました。

その時、指が首から下げていた紐が引っかかって、中に垂らしていた母親が渡してきたお守りが飛び出してきました。

(わっ!)

下り坂で集中が切れたAさんは、スピードを落とし、体勢を整えて辺りに注意を向けました。


その時、目の前の車が、二俣の道を左に向かい曲がりました。


【通行止め】の看板が出ているにも関わらず。


「B!」


咄嗟にAさんはBさんを呼びましたが、Bさんは振り返ることなく、車に続いて曲がっていきます。

Aさんは間髪をいれず、思いっきりペダルを踏み込みました。そしてカーブを危険なほどの速度で曲がり、そのまま走り続けているBさんの横に並ぶと

「B!!」

大声で怒鳴りました。

「うわっ!」

驚いたBさんはバランスを崩して、よろけながらようやくとまりました。


「なんだよ!あぶないじゃないか!」

「見ろよ!」

Aさんの指した指の向こうで、道路に広がって設置している「通行止」のガードをすり抜けた白い車は、崩れて崩落している道の向こうへと姿を消していったそうです。


もしそのままついて行ったなら……

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