第57話 雨に包まれている間
これは20年ほど前の話です。
当時大学生だったAさんは、自動車で実家に帰ることにしました。
途中あちこちを観光もして、旅行のついでに帰省するという感じだったそうです。
その日は山道を登ったり、下ったりしつつ、途中の道の駅に着くと休憩をとりました。
時間は、17時頃だったでしょうか。
予定では、道の駅からふもとに降り、夕陽を浴び海岸を走り、次の市街地で安いホテルに泊まるというもので、道の駅から海岸までは1時間足らずという行程でした。
しかし道の駅を出てしばらくすると、雲が出て陽が翳りはじめたので、もしかすると夕陽を浴びつつ海岸を走るのは無理かもしれないと思ったそうです。
(このまま雨が降るようなら、海岸のある街で一泊して、早朝走るか……)
Aさんは、予定を変える気持ちになっていました。
(……あれ?)
一体どれくらい走ったでしょうか。
雨はフロントガラスに雨粒をいくつか落とした後、急激に辺りを覆う濃霧のような状態になっていました。(ゲリラ豪雨だったのかもしれません)
もう陽は落ちたのか、街灯もない山道は青黒く沈み、更に降り頻る雨で視界は薄い白い布で包まれたように、遮られていました。
ただ車の前灯がそれを切り裂き、白いガードレールを一瞬、浮かび上がらせます。
Aさんは、まるでフロントガラスに顔を突っ込むように、前のめりになって、ハンドルを握っていました。
(こんな細い道のはずがない。一体どこで道を間違えたんだ?)
ナビは「再検索中」の文字が、出ています。
しかも、アクセルを踏んでも、なかなか前に進まないのです。道が上り坂だということを考えても、やはりここまでの筈がありません。
そして下り坂に入ると、道が濡れている為か、今度はブレーキの制動距離が長くなっています。
降り頻る雨の、細く暗い山道で、こんな車のトラブルは、ゾッとするとしか言いようがありません。
唯一の幸運は、対向車が来ていないということだけです。
Aさんは必死で、フロントガラスの向こうを透かして、運転し続けました。
そのうち、少しずつ雨が小降りになり、視界が晴れてきました。すると、向こうに畑や、農作業の道具を置いてあるような小屋が見えてきました。
その向こうに見えるのは、T字の交差点です。
(良かった!民家のある辺りへ降りて来られた!)
Aさんはその交差した道路に出る前に、車を止める為にブレーキを踏んだ瞬間、突然車がガクンと勢いよく止まりました。
Aさんが、思わず悲鳴をあげたほどの急停車だったそうです。
「ビックリした……」
どうやら、ブレーキが突然普通に効くようになったようです。
そして道を曲がると、そこは通る予定の道で、予定より少し遅くはなりましたが、無事に海岸につきました。
海岸あたりは全く雨が降っていなかったらしく、気持ちよく走れたそうです。
「それって、重い『なにか』を乗せて、送らせられてたんじゃないの?」
家に帰り、家族に報告をすると、お母さんにそう言われたそうです。
ちなみに、北陸地方のその街辺りは、UFOがよく見られると評判のところだったそうです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます