第55話 見てはいけない
注意)気のせい、偶然なのかもなのですが…
この話を教えてくれた方、そしてこの話を執筆中、著者の体調が相次いで、とても悪くなりました。
また何度か、公開の手続きをとっていたのですが、なぜか無効になっていました。
もし何か危ないなと感じた方はここでUターンしてください。読まれる方は、自己責任でお願いします。
この話はまた聞きのまた聞きで、聞いた人も曖昧な記憶なので、作為的に辻褄を合わせたところがありますが、大筋は変わっていません。
話自体は大変興味ぶかく、もし元のお話、似た話をご存知の方がおられましたら、教えてください。
Aさんのお母さんの実家は、関東の田舎で、Aさんが小さな頃は夏休みになると、毎年、二週間ほど兄弟で泊まりに行っていたそうです。
おばあさんの家は、そんなに高くない山の中腹にある村の中にあり、近くの一段高い場所に、神主さんが常駐していない、小さな神社がありました。
その神社の近くには小川が流れており、Aさんたちはそこで魚を釣ったり、水遊びをしたりしていました。
そして大人たちから、神社の裏手の方に行くとバチがあたるから、行ってはいけない、表で遊びなさいと言われていました。
そういう「バチがあたる」「不幸が起こる」というのは、大人になって振り返ると、子供が遊ぶには危険な場所や危ない行為を戒めるものだったりします。
そして確かにその神社の裏手は切り立った岩場で、山の上から流れる細い川が、落差で滝になっていたそうです。
もしかすると、その滝が「御神体」だったのかもしれません。
その村では「行ってはいけないよ」と言った後に、大人たちはこう続けるのだそうです。
「万一行ってしまって、そこで知らない人を見かけても、その人の顔を見たり、目を合わせてはいけないよ。
それは水神様で、水神様は自分を見た人を、深い滝壺へ攫って行くからね。」
小さい頃ならまだしも、年齢が上がってくると、そんな話は右から左へと流すようになっていました。
その年の夏の日、中学生になっていた従兄弟が、一つ年下のAさんと二人きりになった時にそっと囁きました。
「今日、友達と飛び込みしに行くけど、Aも行かんか。」
「いく!いく!」
Aさんはすぐに、二つ返事で応えました。
中学生くらいの子供たちが、神社の裏手の池で飛び込みをしていること、それを大人たちも黙認しているだろうことも、気がついていました。
運動神経には自信があったAさんは、参加したいと前々から思っていたのでした。
二人は下の子たちを上手くまくと、滝へと急ぎました。
神社の裏に着くと、既に何人かの男の子たちが順番に岩場から飛び込んでおり、すぐにAさんもその列に並びました。
岩場に登るのはなかなか厄介だったそうですが、ドブンと飛び込み、深い、深い、そして冷たい水をたたえた池の中の滝壺へと潜るのは、スリルがあり、とても楽しかったそうです。
それから、その夏はちょくちょく、従兄弟や従兄弟の友人たちとこっそり神社の裏手に向かい、楽しいひとときを過ごしました。
Aさんが家に帰る時期が近づいてきた頃、雨が何日も続けて降り、川が増水して、飛び込みどころか、川に近づくことも禁止されてしまいました。
「つまらんなぁ」
その日、従兄弟は塾に行き、弟たちとゲームをしていたAさんは、ふいに滝にちょっと行ってみてもいいな、という気持ちになったそうです。
Aさんは来年、中学に進学したら、長期休暇にも練習のある部活に、入ることにしており、おばあさんの家で過ごす夏休みは今年が最後でした。
窓から見上げる空は、雲が途切れ明るさを取り戻し、雨も上がりかけているようです。
少しくらい雨が降っていたって、むしら気持ちいいんじゃないか。
すぐに帰ってくれば……そう、ほんの20分や30分くらいならば、ばれやしない。
問題ない。
Aさんは小さな頃から、物事を慎重に考えるタイプだったそうなのですが、その時は不思議なほど、その考えにとりつかれ、そうせずにはおられない気持ちになってしまったそうです。
「最後だしな」
と、自分を納得させたAさんは、弟たちに、泊まっている部屋で宿題をすると嘘をついて、昼ごはんの皿を洗っているおばあさんの後ろ姿をチラッと見た後、家を静かに抜け出ると、神社の裏の滝へと向いました。
滝には人影はなく、ただ、ただ大きな音を立てて、濁った水が山から落ちていました。
普段はさざなみのよる池の静かな水も、波立ち、岩場の一層深く削れた場所では濁った水が逆巻いて、ドウドウと音を立てて、下の川へと荒々しく流れていきます。
上流で巻き込まれたのか、枝や草が溺れて助けを求めるように、少しだけ浮かんで、また濁流にのまれて流れていきました。
Aさんは、すっかり怖気付いてしまいました。
「帰ろ」
ところがAさんは、坂になっている河岸の濡れた地面で、履いていたビーサンが滑って、転んでしまいました。
「いってぇ」
うった手の平や膝や、ひねったのか、足首のあたりがズキズキと痛み、もしかしたら骨でも折れたのではないかと不安な気持ちになりました。
何とか立とうとしましたが、よろけて、またAさんはうずくまってしまいました。
薄墨で描いたような暗い滝のあたりの風景は、再び降り始めた大粒の雨と滝の音で、まるで遮断された異空間のようです。
普段は良い目隠し役の辺りの木々も、今は風に煽られ、不気味に枝を揺らして、ザワザワと大きな音を立てています。
Aさんは足を斜面の下へ向けて、ずりずりと滑って降りようとしてみました。
が、思いの外、擦れてお尻が痛く、すぐに諦めてしまいました。
「ヤベェ……これ、まぢヤバい」
見上げた空の向こうが、花火のように光りました。雷です。
Aさんは、助けを求めて、必死で辺りを見渡しました。
「おーい!おーい!助けて!!」
あらんかぎりの大声で叫びました。
しかしAさんの声は、滝の音や葉ずれの音に吸い込まれていくのです。
「おーい!おーい!あっ!」
斜め上にある神社の石の欄干のところに、白い着物を着た男の人が立ってこちらを見ているのに気がつきました。
「すみませーん!すみませーん!」
Aさんは必死で手を振りました。
ところがその途端、キーンと耳鳴りがし、Aさんは何とも腹の底が冷えるような心地になりました。
ざわり、と鳥肌が立ち、頭の中から何かが引っ張られるような奇妙な感覚がしたそうです。
「見たらいかん!」
その時、押し殺した叱責の声が、耳元でしました。
「このバカが!こんな日に!」
「あっ!ばあちゃん!」
おばあさんは、自分と同じくらいの背丈のAさんを抱くようにして立たせると、
「辛抱して歩きなさい!」
半ば引きずるようにして、家に連れて帰ってくれたそうです。
家に戻ると、白い顔をした従兄弟たちが出迎え、Aさんはすぐにお風呂に入らされ、従兄弟と一緒に早々に布団に入らされたそうです。
またその夜は、リビングの方からずっと大人たちの声が聞こえたそうです。
あけて翌日、血相を変えた母親が迎えに来て、Aさん兄弟は急遽帰ることになりました。
次にAさんが、従兄弟に会ったのは、彼が大学進学でAさんちの近くに引っ越してきた時でした。
「あれからどうなった?」
Aさんは、引越しの手伝いかたがた、夕食をご馳走になっている時に、従兄弟に「あの時」の後のことを問いかけました。
「あれからお祓いして、お前の服を着せた
Aさんの家では、何となく「あのこと」は、禁句のようになっており、聞くに聞けない雰囲気で、ずっと気になっていたそうです。
「お前、ほんとになんか見たん?」
「多分……」
「実は、あの日の2、3日前くらいに、近所の子が虫取りに神社へ行った時、白い着物の男の人が滝の方見てる後ろ姿を見た言ったんだって。
その翌日から雨だったしで、おかんネットワークがあんまし機能してなくて、お前がおらんいうことになって、その話が出てな」
えらい騒ぎだったと従兄弟は、何処か面白がっている表情で言いました。
「俺も夕方、塾から帰ってきて、お前いないって聞いて、辺りは暗くなってくるし、どうしようか思った。」
「あ!」
Aさんはその時、長年、自分が感じていた一つの違和感に気がつきました。
そうAさんは昼ごはんを食べて少しした頃家を出て、歩いて10分もかからない神社の滝へ行き、行ってすぐに引き返そうとして転び、おばあさんに助けられて帰宅しました。
その間、1時間も経っていなかったはずなのに、6時頃帰宅した従兄弟が家で待っていたのです。
あの日は雨が降る暗い日でしたので、時間の経過はわかりませんでしたが、自分の記憶では1時間も2時間も……という感じではなかったそうなのです。
消された記憶でもあるのでしょうか。
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