第54話 見える同居人
これは前回に引き続き、A先輩から聞いた話です。
◇◇◇
Aさんは働くお母さんです。
高校生の息子さんと中学生の娘さんがいて、旦那さんはコロナ流行直前に、海外赴任していた為に、帰国できない状況になったそうです。
しばらく経った頃からAさんは、家でおかしなことが起こっていることに気がつきました。
子供さんたちの学校が再開した頃のある昼下がり、自宅マンションのリビングでパソコンを開いて仕事をしていると、玄関の扉が開いて、誰かが帰ってきた音がしたそうです。
「おかえり〜」
「ただいま」
リビングのドアの開く音がして、Aさんは目の端に息子さんの姿を捉えて、声をかけました。
すると息子さんがぶっきら棒に応えて、台所の方へ歩いて行きました。
と……そこでAさんはハッと気がつきました。
(あれ?こんな時間に帰宅?)
まだ学校が終わる時間ではありません。
(早退?体調が悪い?)
慌てて目を向けると、そこにいたはずの息子さんの姿は掻き消えていたそうです。
また別の日には、外出して遅くなり大急ぎで帰宅してリビングに入ると、窓際に息子さんが立っていました。
「あ!ごめ〜ん、ご飯、ちょっと待っててや。」
「大丈夫やで」
流し台の前に立ったところで、Aさんはハッと気がつきました。
(あれ?今さっき部屋から、友達と電話してる声がしてたよね?)
玄関からリビングへ行く途中にある息子さんの部屋から、笑い声が聞こえていたことを思い出しました。
慌ててそちらを見ると、誰もいない……
最初は「気のせい?」と思っていたAさんですが、二度、三度と重なってくるとおかしな気持ちになってきました。
ある日娘さんに、気のせいかもしれないけど、と前置きをして、その話をしたそうです。
「母さん、ボケてきてるんやろか。それともストレスやろか」
Aさんはそう娘さんに言いました。
すると
「え、ほんとに?実は私は……」
娘さんもためらいがちに話し始めました。
「位置が変わっとるゆんか、移動しとる気がするんよ。」
あれ?ここに置いてた筈なのに……ということは、だれでも一度や二度、経験したことがあると思います。
しかし鍵とか、リモコンとか普段頻繁に使うものではなく、飾りだなに置いてある置物の向きとか、並べて置いてあるCDや本が少し飛び出しているとか、そう頻繁に触らないような物が微妙に動いている気がするのだそうです。
勿論、家族と住んでいますから、掃除した時に動かしたのか、何気なくしまい忘れたのか、とは思うものの、何となく違和感を感じていたと言います。
「な、お兄ちゃんはなんかないんかな?」
娘さんがAさんに言いました。
息子さんにも同じ話をすると、息子さんは
「いや、俺は気ぃつけへんかったし、まぢで動かしてないで?」
真面目な顔で応えました。
「それより、俺のドッペルゲンガーの方が怖いんですけど……」
息子さんからすると、そっちの方が気にかかるようでした。
ただそれだけで、何も解決することもなく、相変わらず誰かがいるような生活が続いていったそうです。
そしてコロナが一段落し、久しぶりにご主人さんが、帰ってくることになりました。
「久しぶりやなぁ。」
お父さんはニコニコしながら、家を見渡しました。
「あんな、お父さん。」
子供たちの目配せに頷いて、Aさんはご主人に話をしようとしました。
「いやぁ、実はな、なかなか帰られへんかったから、気になっててな、時々、むっちゃリアルな家に帰ってる夢みたんやでぇ!」
ご主人は、笑顔でそう言いました。
「え?」
Aさんたちは思わず顔を見合わせました。
もしかして、あれはお父さんだったのでしょうか。
その後、その異変は無くなったそうです。
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