第53話 遠い国の人
ここのところ出っ放しのA先輩が、学生の頃に聞いた話だそうです。(学生時代のありがちな飲み会の中で、友人のおじさんの話として聞いたもので、ほんまかどうかは分からないとのことです。)
その日Bさんは、関西のとある大きなビジネス街にかかる橋を渡っていました。するとふと足元に緑色の手帳のようなものが落ちていて、折しもふく風でペラペラとページがめくれていました。
そのまま放置して行こうとした時、たまたまその手帳に写真が貼ってあることに気がつき、足を止めました。
このまま放置していたら、風に吹き飛ばされて川に落ちてしまうかもしれない。
そう思ったBさんは、手帳を拾い上げました。
Bさんが中を見てみると、どうやら何処かの国のパスポートのようでした。
パスポートの主は、濃い茶色の髪の毛の西洋系の男性で、名前は英語が苦手なBさんには読めるような、読めないような、微妙に見慣れない文字列が並んでおり、少なくともイギリスやアメリカでは無さそうでした。
現在は入出国のスタンプが廃止された国もありすが、当時はまだそんなこともなく、その人のパスポートには沢山の国のスタンプが押してあり、1番最近のものは日本の入国スタンプでした。
これは大変なものを拾ってしまった。
そう思ったBさんは、警察に届ける事にしました。
しかしその頃、まだスマホというものはなく、小型のトランシーバーみたいな携帯電話の時代で、交番の場所を即座に調べることはできません。
確かこの辺りにあった気がする。
かすかな記憶を頼りにBさんは、片手にパスポートをもって歩き始めました(しかし、まさに反対方向だった)。
しばらくウロウロしたBさんでしたが、全く見つからないのに根を上げて、通りがかりの人に声をかけて、ようよう交番にたどり着くことが出来ました。
するとそこには、そのパスポートの主がいました。
明らかにホッとした様子の警察の人に確認されて、無事にそのパスポートは持ち主のもとに戻り、Bさんは丁寧に何度もお礼を言われて、疲れが吹き飛ぶ思いでした。
「せめてお礼にお茶でも、一緒にどうですか?」
お礼のお金を遠慮するBさんに、その外国の人は流暢な日本語で誘い、ちょうど喉がかわいていたBさんは承諾しました。
喫茶店についてBさんが、その人に話しかけました。
「沢山の国に行かれているんですね。」
「はい。ビジネスで、いろんな国に行っています。」
そういうとパスポートを開いて、スタンプを指さしつつ、その国の話をしてくれ始めました。
彼は大変話し上手で、Bさんはすっかり夢中になって聞き入ったそうです。
特に彼の故郷の国の話は、Bさんの心をとらえました。
簡単なヨーロッパの地図を書くと、フランスの近くを指差して言いました。
「とても小さな国です。」
「素敵な国ですね。一度いってみたいです。」
「是非とも一度、来てください。」
その人は、サラサラとナプキンに連絡先を書くと、Bさんに渡してきました。
「僕には読めません。お恥ずかしながら、この言葉、はじめて見ました。」
Bさんが恥ずかしそうにいうと
「ああ、フランス語です。でも英語も使えますから、大丈夫です。」
それから、喫茶店ででて別れました。
そしてBさんは、その国についてもっと知りたいと思い、図書館で探しましたが、そのような名前の国はどこにも存在していませんました。
あれは偽造パスポートだったのでしょうか?
それとも、彼がBさんに嘘をついたのでしょうか。
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