第9話 ようきたなぁ


これは兄が中学生の頃の話です。


お盆に、家族でお墓まいりに行きました。

前日に、夜更かしをしていた兄は、途中から車中で居眠りを始めていました。

現地に着いても、いくら起こしても、起きません。


「もう、置いていこ」

誰かれなしに、そういう意見が出て、放っていくことにしました。

とはいうものの、季節は夏、しかも、駐車場が民家の裏手にある関係で、エンジンは切らないといけません。


閉めていけば、兄はユデダコ状態になってしまいます。


不用心ですが、窓を全開にして、兄を置いていくことにしました。


しかし、それでも、炎天下の駐車場です。

私たちが帰ってくると、兄は、具合が悪くなっていました。


慌てて、近くの病院行き、軽い熱中症という診断を受けました。



帰宅した後、兄の話に聞いて、ゾッとしました。


兄は私たちが車から離れてしばらくして、暑さで目が覚めたそうです。


起き上がって、ペットボトルの飲み物を飲み、窓から顔を出すと、しらないおばあさんが、

「あらまぁ、お兄ちゃん、お墓まいり?

暑いのにようきはったなぁ。感心やなぁ」

話かけてきたそうです。


兄は、少し西洋系とか中東系の感じのする顔立ちで、小さな頃から、おばさんたちに、声をかけられ慣れているので、愛想よく応えました。


「あ、いえ、でもほんま、暑いですねぇ」


兄が返すと、おばあさんは、ニコニコ笑いならが、

「ほんま、暑いなぁ。

お兄ちゃん、おうちの人が帰ってきはるまで、おばあちゃんとこで、休んでいかへんか」

勧めてきます。


流石に断りましたが、

「おばあちゃんとこ、なぁんもあらしまへんけど、ここよりかは、涼しいで」

重ねて、誘ってくるそうです。


何度か断ると


「ほんなら、えらい汗かいてはるから、おぶうだけでも飲みや」


兄に飲むように、白い陶器の湯呑みを持って、勧めてくれたそうです。

先程、ペットボトルを飲み干していた兄は、これはありがたく受け取って、口をつけようとしたそうです。


しかし、口をつけた瞬間、なんとも苔くさい臭いがして、これは腹を壊すやつと思い留まりました。


「そんな、遠慮しぃひんと、しっかり飲み。

それとも、ばあちゃんとこのおぶうは、飲まれへんのんかなぁ」

などと寂しそうに言うそうで、兄は、困ってしまいました。


「また、後でもらいます」

「いや。早う飲み。おにいちゃん、具合が悪そうや。早う飲み」


そう言われると、なんだか、だんだん、頭が痛くなり、吐き気がしてきました。


「お兄ちゃん、ほんま具合、悪そうや。

やっぱり、そんな暑いとこおらんと、涼しいおばあちゃんとこへおいで」


お婆さんは親切そうに勧めます。


(まぢ、そうした方がいいかも……)


身体の内部から、熱でほてる感じがして、これはちょっとヤバイ……と感じた兄は、ちょっとだけ、お邪魔しようと思い直しました。


それで、おばあちゃんの方を見ると、おばあちゃんが指してるのは、どう見ても……お墓の納骨の穴です。


(うわ!)


「無理!無理やー!」


兄は叫んでいたところ、私たちが帰ってきたそうです。


夢だったのかもしれません……


もしかしたら、誰もお参りしてくれないお墓のおばあちゃんだったのかもしれません。


姉は、ちゃんとお参りしない兄に、ご先祖さんたちが怒ってお仕置きしたんやと言っていました……


さて、どれでしょう。





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