第10話 トンネルの向こうで
学生時代、心霊スポットと呼ばれる場所に、行ったことがあります。
関西のK山のKトンネルで、「そのトンネルの内部で出る」というものでした。
深夜2時頃、現地に到着した私たち、総勢七人は、いくばくかの恐怖とその裏返しのような上ずった軽い興奮状態にありました。
トンネルは山奥にあり、周囲の山々は真っ暗で、周囲はひたすら、暗い空と黒い山が広がるのみです。
さらに目の前のトンネルは思いの外長く、内部の光は、薄暗く、湿ったような感じがして不気味でした。
秋の夜風は、既に冬のように冷たく、黒く闇に沈む木々の葉擦れの音が、ひときわ寂しげに、人通りの無い山道に響いていました。
その上、霧雨が音もなく降り出し、地面の落ち葉を濡らし、視界が更に悪くなっていました。
当初歩いて往復する予定でしたが、厚手のパーカ程度では震えるほど、霧雨の降り注ぐ、夜の山の気温は、下がっていました。
元々、乗り気ではなかった私は、すっかり行きたくなくなりました。
「いやや、行きたない。こんな夜中に歩いてたら、普通に凍死する」
できれば、トンネルのこっち側で待って居たかったのですが、そこまで同意は求められず、車でそのトンネルを通過することになりました。
再び車に乗り込むと、車は静かに、走り始めました。
しかし、いざとなると、怖くなったのか、トンネルに入った途端、皆、奇声をあげ、私は隣の席の子の手を握って、顔を伏せて、ひたすら神様に助けを求めていました。
トンネルを抜け、そのまま、暗い山道を走らせていくと
「いや、ヤバかった」
「声が聞こえた」
「白い顔が見えた」
だの、口々に興奮気味に、言い合い始めました。
結局のところ、何もなかったけど、ソコソコおもろかったというありがちな、恐怖イベントで終わりました。
翌日、私はガソリン代の清算がてら、車の持ち主の子と、GSに向かいました。
「みんな、ギャアギャアゆうてはったのに、声聞こえたとか、ありえへんわ」
「ホンマやな。白い顔とか絶対、霧やろ」
集団心理やなと、二人で笑いました。
ガソリンを入れ終わると、ついでにゴミを捨てて、簡単に車の掃除をすることにしました。
フロントガラスから始め、左右に分かれて窓を拭きます。
ところが、一足早く、後ろに回った持ち主の子が
「うわ!なんやこれ!」
叫び声をあげました。
顔色を変えたその子のそばに行くと、後ろの窓に、いくつか手の跡が付いていたのです。
しかも、中には、小さな手の跡も……
まるで、バンバンと叩いたように。
「そういえば、後ろの席の奴が、窓叩いてたゆーてたな」
「せやけど、これは昨日のとは限らんやん」
私はゾッとしながら、必死で言いました。
そうやな……
わからへんよな。
私たちは、そう言い合いました。
それでも、薄ら気味が悪くなり、私たちは、帰りに神社を廻って、多めのお賽銭を入れ、ついでに寺も廻って、手を合わせました。
それから、念のために、昨日のメンバーに、事の次第を送っておきました。
それから、一週間のうちに、こんなことが起こりました。
メンバーのうちの一人を、長く見ないなと思っていたら、風邪ひいて寝込んでいました。恐らくインフルで、身体中が痛くて、指もうごかせず、誰にも連絡できなかったそうです。
一人暮らしだったので、大変だったと思います。
それから、もう一人の子が階段から落ち、足の骨にヒビが入りました。
「誰か押してん」
でも、周囲にいた人たちは、押した人は見てないと証言したそうです。
更に、もう一人、実習中、突然固定してた筈の物が倒れて来て、その下敷きになりました。本人には、大した怪我がありませんでしたが、それは課題提出寸前だった為に相当リカバーが大変でした。
残りの二人は、お祓いに行ったそうです。
偶然だと思いたいです。
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