異世界のかけら(実話)

麒麟屋絢丸

第1話 落ちる音


 その夜、私は家族とリビングでテレビを見ていました。

当時の家のリビングには、庭に向かって大きな窓がありました。

季節は梅雨の少し前の頃で、エアコンを点けるほどの暑さでもなく、風が大きく開け放した窓からリビングへ、吹き抜けていっていました。


母は窓辺の低い椅子に座って手仕事をし、父は大きなソファにゆったりと座って、新聞を読んでいました。私は父の隣に、兄は床に座り、ソファにもたれて、テレビを見て笑っていました。


丁度、姉がリビングに入ってきた時、急に窓の方から、何かが転がり落ちるような音が聞こえました。

それは、近くで雷が落ちたような、大きな音でした。


私たちは驚いて、一斉に窓の方をむきました。

それから、まるで、次の展開を待っているように、窓を向いて、ただ、固まっていました。


リビングには、相変わらず、テレビの音が流れています。


そのテレビの音に、我に返った母が、窓の方へにじり寄って、カーテンを開けようとすると、父が立ち上がり、

「危ないから」

低い声でそういうと、姉に電気のスイッチを消すように合図を送り、窓の横に立てかけていた兄の木刀を片手に、窓の前に立ちました。


カーテンをめくり、しばらく庭の方をすかし見ていた父は、

「猫でも屋根から落ちて、逃げていったのかなぁ」

首を捻りながら、つぶやきました。


それでも、

「家の中を見てくるから、そこに居なさい」

木刀を持ったまま、リビングのドアの方へ行きました。

私たちは、ボンヤリとして、父が目の前を歩いていくのを見ていました。


その時、

トゥルルル

突然家の電話が鳴り、私たちは息を呑んで、テーブルの上で光る子機を見つめました。

弾かれたように母が、子機を取り上げました。


「はい、あら、お姉さん?」


一瞬の緊張のあと、母は少し笑うような声で、叔母を呼びました。

叔母からの電話と分かると、父はリビングから出ていきました。


ところが、母はすぐに電話を切り


「お父さん!!」


悲鳴のような声を上げて、父を呼び返しました。


「お父さん、お父さん!大変!

お義兄さんが、今さっき、亡くなったって!」


そうです。


叔父は数時間前、会社の階段で足を滑らせて落ち、そのまま病院へ運ばれて、先程、還らぬ人になったそうです。


叔母と母は仲が良く、家族ぐるみでよく、旅行へ行ったりしていました。

子煩悩な叔父は、私たちをも可愛がってくれ、仕事で近くに来た時には、よく寄ってくれていました。


ですから、お別れに回ってくれたのかも知れません。


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