第19話 時の壁を越える1


大学時代、私は一人暮らしをしていました。

その夜、友人が遊びにきて、テーブルを囲んで話をしていました。


友人は、新撰組が大好きで、延々とその話題をしていました。

私は、当時、あまり歴史には、興味はなかったのですが、姉が幕末史を好きだったので、多少の知識はあり、それなりに話が弾んでいました。


学生の夜は遅く、既に夜半を越え、車の音も絶え、たまに階下の先輩たちの笑い声が響くだけで、笑い声の後は、前よりも深い、夜の静けさが辺りを覆っています。


友人は、楽しげに隊士たちの、様々な話をしています。


テーブルの上のお菓子は、ほぼ食べ尽くされ、コップに入った飲み物もぬるくなり、滑り落ちてきた露がテーブルを濡らしています。


もう時間は丑三つ時の頃でしょうか、私は、だんだんボーッとしてきていました。


ですから、それは夢だったのかもしれません。


ふっと気がつくと、私は暗闇の中にいました。

真っ暗で、墨絵のようなモノトーンの世界です。


私の体は、腰を落とし、ゆっくりと板敷きの床を足を滑らせながら、進んでいます。

手は左腰の辺りにあり、右手で何かを握り、親指が金属に当たっていることがわかりました。


右の後ろには、階段があることを、私は知っています。

左側には、襖のようなものが並んでおり、私はその奥に向かって、「殺気」を放ち、返ってきた念で、中のことを探っているようです。


殺気というものが、無数の細い、髪の毛程の極細の針となり、私の全身の開いた毛穴を刺し、ビリビリと肌の上に電気が走っているようです。


凄まじい緊張が、とんでもない圧力で、私の体を押し潰そうとしています。


それは、「ような」ではなく、悲鳴を上げるほど、体感として、毛穴がビリビリと痛く、そして四方から、生温く水を吸ったスポンジのような重い壁が、酷い圧力で重く、重く、ジワジワと押し潰してくるのです。


(怖い……)

と思う余裕すらありません。


痛い……


喉を締め上げ、息をすることもままならない状態です。

立ち止まりたいのに、身体が勝手に動き、そして殺気を発して、部屋の中を探っていきます。


苦しい!


痛い!痛い!痛い!痛い!!!


耐えられなくなり、私は、大声で叫びました。



うわぁぁぁぁーーーーー!


途端に、目の前の友人が、ポカンとして、こちらを見ていました。


一瞬、寝てしまっていたのかもしれません。



ただ、何というのか、馴染みのない、想像もできない異質な空間だったのです。


因みにこの話をした後、池田屋へ行ってみましたが、非常に邸内は似ているものの、私の言った「右斜め後ろに階段」はありませんし、池田屋事件のように『勢いよく中に入り』という感じでもなかったのです。


とても不思議な体験でした。


もし、これを読まれている方の中に、何か心当たりがあれば、教えて下さると嬉しいです。





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