第21話 伝わる

学生時代の夏休みの話です。


その年、Aはバイトの為に、帰省をしませんでした。

丁度お盆の頃、同じく帰省をしていないBの下宿に、遊びに行く約束をしたそうです。


時間は昼を少し過ぎた頃、炎天下をトボトボ歩いて、Bの住む学生アパートに向かいました。

途中のコンビニで、ペットボトルと弁当などを買い、ほぼ時間通りにBの部屋のインターホンを鳴らしました。


ところが、いくら待っても、再度インターホンを鳴らしても、ドアを叩いても、応答はありません。


そこで電話をかけてみましたが、これも応答なし。

日時を間違えたのかと思いましたが、メールを確認すると間違えていません。


(もしかしたら、部屋で倒れているのかも……)

そうも思いましたが、不動産屋に連絡するにしろ、ドアを蹴破るにしろ、もし間違ってたらと思うと二の足が踏まれます。


Aは困惑して、辺りを見回しました。


学生アパートは人気がなくシンとして、ひたすら蝉の声がうるさく響くのみです。

暑さに辟易としたのか、道には人影もなく、たまに自動車が、通り過ぎて行くだけです。


自分の下宿に帰ることも考えましたが、暑いさなか、空腹を抱えて、ここからまたバス停まで歩くことを考えると気持ちが萎え、ドアの前に座り込んでしまいました。


吹き出す汗を Tシャツの裾で拭い、ペットボトルを少し飲み、ボンヤリと廊下の柵越しの景色を眺めました。


青い空を背景に、緑の木々が茂る山々。

ゆったりと流れる白い雲。


どこからか聞こえてくる犬の声。


元々Aはのんびりした性格だったこともあり、非常に平和な気持ちで、それらを眺めていたそうです。


するとその時、突然Bの声が聞こえて来ました。


「ごめん!買い物に行ったら、手間取っててん。悪いけど先に飯食って待ってて!食べ終わった頃帰れるから!」


Aは驚いて立ち上がり辺りを見ましたが、人影はありません。

しかもその声は、自分の胸から聞こえてきたように思えたそうです。


なんかよく分からないけど、そういうことか……と、なぜか納得して、とにかくお腹が空いていたので、とりあえず弁当を食べることにしました。


そして食べ終わる頃、その声の通りBは帰宅したそうです。


BはせっかくAが来るので、自転車で20分ほどのスーパーまで買い出しに行ったところ、お盆で人出が多かったり、思いもかけず人助けをすることになったりで、予定より大幅に時間をくってしまい、しかも携帯は忘れてしまっていて、ずっとAに心の中で呼びかけていたそうです。


今も二人は仲良しです。

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