第44話 御ててをつないで

 それはコロナ直前の年の正月のことでした。


Aさんは、奥さんと子供達を連れて初詣に行きました。

Aさんは5歳の男の子を、奥さんが小学生のお姉ちゃんの手を引いて、人混みの中を歩いていたそうです。


「ちゃんと手をつないでいこうね」


子供達に言い聞かせていましたが、道端には露店が出ており、それに気を取られたのでしょうか、突然下の子供がAさんの手を振り払って、走っていきました。


「あ!」


 咄嗟のことにAさんは出遅れ、それでもすぐに後を追いかけましたが、まるで川の流れのような人混みで、下の子の姿を見失ってしまいました。


下の子が行きそうな露店も見ましたが、そこにもいません。


もうこうなるとお詣りどころではなく、みんな真っ青になってしまいました。


随分しっかりしてきたとはいえ、まだ5歳。

しかも家の近くではなく、Aさんの実家に帰省して、息子さんもしっかりしてきたからと、観光地にもなっており、ツアー客も来るような有名な広い神社へ来ていたそうです。


これはまずいことになったと、神社の案内所?に行って、警察に届けを出そうという話になりました。


Aさんが神社の人に説明をしている間に、奥さんがAさんの実家に連絡をしました。


するとAさんのお母さんが

「大ばあちゃんが、夢で見たって!境内の大きな木のとこへ行けっていうとる」と言うそうです。


藁にもすがる思いで、奥さんが人混みの中、揉まれながらなんとかそこへたどり着くと、境内の外れに立っている大きな木の根本に息子さんが立っており


「かーさん、遅っ!」


笑っていたそうです。


「あんた、何をしてたん?」

奥さんは腰が抜けるように、息子さんに抱きついたそうです。


 息子さんが言うには


何かよくわからないけれども、とにかく懐かしい女の人を見かけて、つい追いかけてしまったそうです。

その時にはどこの誰というのがわかっていたのですが、それがもう思い出せない。


とにかくその時は嬉しくなって、追いかけていると、その人が振り返って、ビックリした顔をしたそうです。


「どこへ行くの?」

息子さんが聞くと

「私、お詣りをしにきたんだけど……あの、お母さんたちはどうしたの?」

困った顔をするので、息子さんはすかさず

「僕もそうだよ。一緒にいこうよ」

と手を取ると、その女の人はかなり迷ったようですが、「ほんなら、しっかり手をつないでおかんとだめよ。絶対離したらいかんよ」と手をひいて境内へ向かったそうです。


大変な人出でしたが、不思議なことにすいすいと前に進み、まるで水の中にいるように、辺りの物音がもぉんとした感じで聴こえていたそうです。


そしてお詣りをすませると、「ここでサヨナラよ。この木のとこで待ってたら、お母さん来るからね。

この後私を追いかけてきたら、もうお母さんに会えないから、追いかけてきたらいかんよ。

じゃあ、またね」

そこへ息子さんを置いて手を振ったそうです。


 その人の顔はもう思い出せませんが、ただ賽銭をお札ではない紙のお金であげていたそうです。


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