第45話 あなたに会いに…
44話のAさんの大きいおばあちゃんの話です。
大おばあちゃんは、戦争を体験しているせいか、大変信心深い人で、足腰を悪くするまではさまざまなお寺や神社に足を運んでいたそうです。
特に家の近くの大きな有名な神社は人混みも多く大変ですが、必ず年に一度はお詣りをするようにしていました。
と言うのも、理由があったからです。
おばあちゃんの実家は、この大きな神社の門前町にありました。
おばあちゃんが小さな頃は今ほど観光化されておらず、子供たちも気軽に入ることができたそうです。
古くからの門前町の子供たちですから、親御さんから厳しく躾けられていて、神社の境内で大声をあげたり、缶蹴りや縄跳びなどをして遊ぶようなことはしませんでしたが、鎮守の森の中や下宮でかくれんぼや鬼ごっこなどして遊ぶことはあったそうです。
戦争が激化していくある日、おばあちゃんの仲良しのA子ちゃんが、色々な事情が重なりお母さんの実家に疎開することになりました。
それで最後に一緒にお詣りへいき、内宮の大きな木の下で、ここでまた会おうねと指切りげんまんをしてお別れしました。
そして戦争が終わり、おばあちゃんはA子ちゃんが戻ってくるのを待っていました。
疎開していた人も戻り、兵隊さんたちも戻りましたが、A子ちゃんは戻ってきません。
おばあちゃんは親に聞いてみましたが、「どうしたのかねぇ」というばかりでした。
しかしある日、ついに人混みのなかにA子ちゃんの姿を見つけました。
いつもの紺色の着物を着たA子ちゃんが、髪の毛を揺らしながら内宮の方へ急いでいます。
(ああ!やっと!)
おばあちゃんは、一生懸命追いかけました。
大人の背中と背中の間から、A子ちゃんの後ろ姿が見えます。
軽く肩を揺らしながら走る癖も、変わっていません。
(元気そうで良かった!)
おばあちゃんは追いかけながら、あれからどうだったかお互いに話をしようとか、これからまた一緒にあれをしよう、これをしようなど、色々考えると、胸が高鳴るのを抑えられませんでした。
しかし内宮に入り、人混みから抜け出して、約束の木のところへ行きましたが、そこにはA子ちゃんの姿がありませんでした。
(あれ?)
あんなにはっきりと見えていたのに、あたりにはそんな女の子はいません。
おばあちゃんは随分長くそこに立っていましたが、A子ちゃんは姿を現すことはありませんでした。
それから、度々、おばあちゃんは、人混みの中でA子ちゃんを見るようになりました。
ある時など、ふと横を見ると、A子ちゃんが少し遠くの人と人の間から、こちらに笑顔をむけていることもありました。
そしてそのまま人混みに揉まれながら歩いて、人の影に隠れてしまうのです。
流石におばあちゃんも、A子ちゃんはもういないのだ、自分との約束を果たしに帰って来てくれているのだと理解するようになりました。
「A子ちゃんは、あすこで私と一緒にあの世に行くのを待ってくれてるのよ。
だから、時々会いに行って、こんなおばあちゃんになってるのよって教えてるのよ。」
おばあちゃんは、そう言って笑うそうです。
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