第39話 思い出したこと

 Aさんはその日、いつものように取引先に向かっていました。


その少し前、会社で上司に挨拶をすると

「頑張ってこいよ!あ、ここの近くの〇〇にも顔を出して……」

と余分に仕事を押し付けられました。


その時ふっと

(あぁ、前もこんなことあったな)

そんなことを、思い出し

(課長、結構人使い荒いもんなぁ)

心の中で苦笑いしつつ、Aさんは素直に承諾して一旦席に戻ると、隣の席の同僚が小さく

「おつかれ」

と声をかけてきました。

「行ってくるわ」

「おう!気をつけて」

定番の会話をして、外へ出て行きました。

(励まし合える同僚がいて良かったな)

お馴染みの風景だなと、何かひっかかる記憶を感じながら、そう考えたそうです。



途中、駅の通路を歩いていると、前の人がスマホを取り出した途端、一緒に出てきた紙が通路に落ち、Aさんはすかさず拾ってあげました。


「あ、すんません」

同じ年頃の男性が頭を下げ、Aさんも

「いえいえ」

軽く微笑んで抜かし、電車に乗りました。


(あれ?なんとなくデジャヴだわ)

しかしデジャヴというのも、結構あることですし、Aさんは気にせず、流れていく風景を見ていました。


 駅に着くと、時間に余裕があることを確かめ、近道を使って取引先の近くのコンビニへ行くことにしました。

(なんだか落ち着かないな……コンビニで何か飲むか……)


細い道から一車線の道に出る時に、丁度スマホが鳴り、歩くスピードを緩めたAさんに、後ろから来ていた女性がぶつかりそうになりました。

「あ!」

女性はすれ違いざまに少し迷惑そうな顔をしながら、Aさんの横を通り過ぎようとしたとき、咄嗟にその女性を呼びとめました。


「あっ!待ってください!!」

「えっ!」

女性が驚いて足を止めた次の瞬間、ものすごい勢いでバイクが通り過ぎていきました。


 デジャヴを感じて落ち着かなかったAさんは、目の前でその女性が跳ね飛ばされて、大怪我を負う夢を思い出したのです。


「今思えば、朝からどうも気持ちが悪かった」

Aさんはそう言ったそうです。

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