第61話 去り行く友

 現在40代のAさんが、まだ20代だった頃の話です。


Aさんの友人 Bさんが、まだ若いのに突然亡くなったそうです。

友人たちはお葬式に駆けつけ、 Bさんの眠る棺が運ばれて行くのを見送りました。


Aさんたちは学生時代から、とても仲良くしており、それだけにBさんの突然の訃報は衝撃で、棺を見送ったというのに現実が飲み込めず、放心した状況でした。


「オレんちで少し話しようか。」

近くに家がある人が誘い、皆、ありがたくそうすることにしたそうです。


「みんなで、よく、こうやって集まったなぁ。」

しみじみと誰かが言い、そこからは思い出話に花が咲きました。


「ああ、もうBはいないのか。」

誰かの静かな呟きに、わずかな沈黙が流れ、啜り泣く声がそれを破り……Bさんとは会えない現実が、腑に落ちていったそうです。


「それでも、こないだみんなで集まれてよかったよなぁ……」

Aさんが、しみじみ言いました。


社会に出ると、なかなか全員で集まるということが難しくなっていましたが、その時は別の用事があった人も予定を変更し、休みが土日や祝日ではない人も休みを取って、久しぶりに一同に顔を合わせました。

「あれ……無意識に、分かっていたんだろうか。」


その声に、土日祝日が休みではないCさんが、コップを置いて顔を上げました。

「実は忙しい時期で、当然休みが取れなくて諦めてたんだけど、Bがどうしてもと言うから、パートさんに頼み込んで、無理矢理休んだんだよ。」


おおらかなBさんと、マイペースなCさんは気が合って、グループ内でも仲がよく、普段から連絡を取っていたそうです。

それで一度欠席の連絡のあったCさんが来れることになったと、間際になってBさんから連絡があり、皆、喜んだのだそうです。


しかしその時、Cさんとしては、いつになく粘るBさんにも、同時にそれを煩わしく思わず、なんとか休みを取りたいと強く思う自分にも、なんとなく違和感があったそうです。


Cさんは、また溢れてくる涙を堪えるように、トツトツと語り始めました。


「それでなんか気になって、 Bの方を時々見てたんだけど、そうしたらいたはずの場所から、フッと姿が消えたような感じのことがあって。

でもそんなことあるはずないから、自分が疲れているんだろう。気のせいだって思ってて……」


Cさんはコップに視線を落としたまま、唇を噛んで口をつぐみました。

目から一粒涙の滴が、落ちていきました。


「いや、俺、それ言われると分かるわ……」

Dさんがみんなの写真を撮ろうとした時、 Bさんの姿がどこにも見えなくて、「あれ?Bは?」と視線を向けると、 BさんはCさんの横に普通に座っており、みんなが「おる!おる!なんだ、酔っとんか、D?」

「え?そんなに存在感ない?」

と笑ったというエピソードを思い出させました。


俯いていたCさんは、顔をあげてさらに言いました。

「A、覚えてる?食事をしようと入った店で、最初にBが入ろうとして、自動ドアが開かなくて……」

「え?あっ、ああ!」

自動ドアが開かず、Bがぶつかりそうになり、慌てたAさんと Cさんが一歩前に出た途端、スッとドアがあいたということが確かにあったそうです。

その時は、反応の鈍いセンサーだなくらいで、気にしていなかったのですが、こんな風に言われてみれば……


それはBさんがこの世をじきに離れることになる、前兆だったのでしょうか。


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