第47話 贈り物

 友人のAちゃんは、あまりメジャーではない楽器を演奏しています。


その楽器は海外の工房で一つ一つ受注されてから製作されるので、非常に時間がかかり、また高価になるそうです。


Aちゃんが愛用していたのは、学生時代にバイトをして購入したもので、その楽器の中では普及版というのか、比較的手にしやすいものでした。

しかし、プロとして生計を立てるようになると、もうワンランク上のものが欲しいと思いコツコツとお金を貯めていました。


 ある時、Aちゃんに大きなチャンスが巡ってきました。


それは丁度、目標額を達成して、さぁこれから注文をしようとした頃のことでした。


出来れば新しい楽器で臨みたいと思いましたが、何しろ手元に届くのが早くて半年、遅くなれば一年以上かかるので、間に合いそうにありませんでした。


それで毎夜、毎夜、ホームページで制作状況を確認をしながら、溜息をついていました。

(良い楽器なら、もっともっと良い演奏ができるのになぁ)



 そんなある時、Aちゃんは仕事の依頼で、とある街を訪れました。

そこは彼女が大好きなある偉人の生まれた街で、仕事のついでにゆかりの地をまわりました、


(楽器の良し悪しもたしかにあるけど、それだけじゃない。私もこの人のように、大局を見つめて、無私の気持ちで、人の役に立つように頑張っていこう!)


気持ちを切り替えたAちゃんは、帰りの電車に乗りました。



 軽く揺れながら、電車が進みます。

Aちゃんは、知らぬうちにウトウトしていました。


まどろみの中で、Aちゃんは誰かから話しかけられていました。


それはAちゃんが尊敬して止まない、偉人のように感じられました。


『ほうか、ほうか。それなら、ワシがそれが早う手に入るようにしてやろう。』


その人はニコニコと笑いながら言いました。


ハッと目が覚めたAちゃんは、本当のこととは思いませんでしたが、自分の決意を後押しして貰ったような気がして、嬉しくなったそうです。


 それから暫くしたある日、Aちゃんの手元に楽器が届きました……


注文して、3ヶ月目のことでした。


キャンセルが出たことと、工房の手違いと勘違いで、Aちゃんの注文が早く通って、その上たまたま日本へ送る別の物の荷物に滑り込みで入り、あり得ない速さで届いたそうです。


(こんな事ってある?)


Aちゃんは、その偉人が起こしてくれた奇跡だと有り難く思って、その楽器で演奏する時には、あの人のように人のお役に立てますようにと思いを込めるそうです。



(注)偉人の方は、大変ファンの多い方なので、気を悪くされる方もおられると申し訳ないので方言は適当です。

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