第6話 さようなら


これは、姉がまだ独身だった頃の話です。


ある夜、寝ていると、自分の枕元に、誰かが立っていることに気がつきました。


枕元に立っている人は男性で、見えるのは膝から下だけだそうです。


枕に頭をつけて寝ているのですから、頭の上の方に立っている人の姿が見えること自体、おかしいのですが、とにかく、ズボンを履いた男の人が、靴を履いて、自分の枕元に立っているのが見えたそうなのです。


その靴に、姉は見覚えがありました。


それは、仲良くしてもらっている職場のおじさんがよく履いているものですが、ただ、まるで、雨の上がりの日に転んだように、泥だらけなんだそうです。


姉は、スッと体が冷たくなり、とにかく、よく分からないけど、声をかけたらいけない!かけられてもよくない!と思い、ひたすら、心の中で、ごめん!悪いけどあっちいって!とお願いし続けたそうです。



翌日、出社した姉は、その人が前日の夜半、帰宅途中、交通事故に遭って、明け方亡くなったという話を聞きました。


丁度、車から逃げるように草むらに倒れ、下半身は泥だらけだったそうです。



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