第29話 おともだち

上司が昔住んでいた家の、隣のご家族のお話です。


隣同士になった頃には、子供世代はもう中学、高校くらいで、学校が違ったこともあり、一緒に遊ぶどころか、顔もよく覚えていないような付き合いだったそうです。


しかし母親同士は仲が良く、上司のお母さんが隣の家のおばさんから聞いた話だそうです。


昔、おばさんの二人の子供たちもまだ小さかった頃、おじさんが仕事人間のため、ワンオペ育児で大変だったそうです。


そのためでしょうか、上の子が「見えないお友達」と会話をするようになっていたそうです。

◯ちゃんと名前まであり、ご飯を一緒に食べたり、絵本を読んだりするそうです。


おばさんは心配しましたが、周りのママ友から、幼稚園に通うようになれば、落ち着くからとアドバイスを受けて、様子見をしていたそうです。


しかし空中を見て話をしている我が子の姿は、心配とはまた別に、日が暮れた後、家の中で二人きりになると薄気味悪く感じていました。


ある夜のことです。

もう寝る時間になり、上のお子さんを布団に入れて、寝かしつけようとしていました。

すると上の子供がまたお友達と何か話しをして、ウンウンと頷いた後、振り返ってこう言ったそうです。


「かあさん、明日朝早くにお出かけやから、みんなの用意しといてや」



そんな予定はありませんでしたが、普段になく駄々を捏ねるし、せっかく寝ている下の子が起きても困るので、言われるがままに枕元に一泊くらいはできる荷物をつくったそうです。


その明け方、おばさんは子供に

「◯ちゃんが、お出かけやでって言うてっで!」

大声で叩き起こされました。


「もう少し、明るうなってからにしよ?」

おばさんは子供を宥めましたが、押し問答になってしまいました。


その時、横で寝ていたおじさんが起き上がり

「まぁ、ええやんか。とりあえず家の周りを一周でもしたら気がすむやろ。」


どういう風の吹き回しか、まだ早い時間帯なのに、枕元に置いていたジャンパーをパジャマの上にひっかけ、下の子を抱き上げると荷物を持って玄関に向かってくれたそうです。


一家が荷物を手に、家の外へ一歩出た時


あの大地震が起きました。


おばさんの家は、家屋が倒壊するような被害は出ませんでしたが、家の中はタンスが倒れ、ガラスが散乱し、あのままいれば怪我をしたかもしれませんでした。


おじさんは前日地鳴りの音を聞いていて、近々地震がくるかもと考えていたといいます。

それで、その時は明確に避難するつもりは無かったけれども、何処かでそれが影響していたのかもしれないなと、後日言っていたそうです。


そしてそれから、◯ちゃんは来なくなったそうです。

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