第37話 大好きな人

 数年前の話です。


 Aのおばあちゃんは、早くに結婚して子供ができたそうで、まだお若い年齢なのですが、旦那さんが亡くなられたのを機に身辺を整理して、高齢者向けの賃貸住宅へ移られたそうです。


元々社交的な性格というのもあり、同じ住宅の方々とも仲良く交流して、元気に暮らしておられたそうです。


そんなおばあちゃんの所へ、面会にいった時のことです。


おばあちゃんは、いつものように明るく、あれこれ楽しそうに話をしていました。

その時、ふと思いついたように「Aちゃん、昨日来たら良かったのに!」と言ったそうです。


おばあちゃんは「〜すれば良かったのに」という言い方をしない人なので、よほどのことがあったのだなと思ったそうです。


「昨日、なにがあったの?」

Aが問いかけると、おばあちゃんは満面の笑顔で言ったそうです。

「それがね、Bくんが来てくれたのよ」


Bくんというのは、おばあちゃんの初孫で、Aの従兄弟なのですが、障害を持って産まれていました。

そのBくんを、おばあちゃんはとても可愛がっていました。


「ああ、おじちゃんたちが来たの?」

「いいえ、Bくんが一人できたの」


Aは絶句をしてしまいました。

そんなことは、あり得ないことだったからです。


「ほんと、立派な姿でね、しっかり挨拶もしてくれたのよ。」

おばあちゃんが嬉々として話をするのを見て、心配になったAは急いで家に帰り、お母さんにすぐ相談しました。


「えー!おばあちゃんがそんなことを?」

お母さんもビックリして、すぐにおばあちゃんを病院に診てもらう手配をすることにしたそうです。


そんな時に、Bくんの訃報が入りました。


Aは家族と一緒におばあちゃんを迎えにいき、通夜の会場に向かいました。


「急なことで、最後に会ってもらえなくて……」

おばさんが涙をふいていると、おばあちゃんが言いました。


「昨日、Bくんがきてくれたのよ。とても立派な姿でね」

おばあちゃんがボケたのか、と皆が絶句する中

「え?それって何時ごろのことですか?」

おばさんが、身を乗り出して聞きました。


「ええ、昼過ぎだったわ。

ありがとう。また会いましょうって」


おばさんはそれを聞いて、号泣し始めました。


その時間あたりにBくんは

「おばあちゃんのとこへ行ってきたよ」

と言ったそうです。


ただその時にはおばさんは、おばあちゃんのことが大好きなBくんが、最近会えてないので

「(お母さんたちだけでも)おばあちゃんのとこへ行ってきてよ」か「行ってきなよ」と催促したのかなと思っていたそうです。


もしかしたら本当にBくんは、自由な姿になって、おばあちゃんのところへお別れの挨拶に行ったのかもしれませんね。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る