第105話 新しい治療法
「そう。新しい治療法。それなら同僚の子に見せなくても悪夢を治せる。それにかなり楽な治療法」
「そんな都合のいいものがあるんですか」
「ある」
そう言った馬場は偉人のような凄みで頷いた。声もわざと低くして、
「あるのだが……まだ実験中なんだよね。だから、やるなら草部君に実験体になってもらうって形かな」
「ええ。それはえっと……」
「うん。まだ100%安全じゃないし、効果も絶対じゃない」
「じゃあ、嫌ですよそんなの」
凛太は当然断った。真面目な顔で断った。しかし、ここでまた馬場は場違いな態度を取った。
「いや、1回やってみようよ草部君。この通りだから」
「え。なんすか」
「お願い。ちょっと付き合ってほしいんだ。頼めるのは君しかいない。僕の一生のお願いだ」
「ちょっとちょっと。急にどうしたんですか」
「新しい治療法の実験に付き合ってほしい」
「嫌ですって」
座ったまま頭を下げた馬場はそのまま凛太の膝にすがりついた。頭頂部が迫ってきたので後ろに引いたけれど、しっかり足を掴まれた。今、誰かが急に部屋に入ってきたら良からぬ勘違いをされそうだった。
「でも、普通の治療法も嫌なんでしょ」
頭頂部だけだった馬場の頭が顎をあげる。
「確かにそうですけど」
「じゃあ新しい治療のほう選ぼうよ。また何か奢ってあげるから。ね」
「でもさすがに怖いですよそんなの」
「お願い。とりあえず1回でいいから。嫌だったらドタキャンしていいから。話だけでも聞いて」
それから凛太は馬場の新しい治療法についての話を聞いた。いつもの睡眠講釈にも増して分かったような分からないような話だった……。
「――――だから、そこで僕は考えた。機械や薬の力で能動的にこのような明晰夢を見ることはできないかと。もともと今やってる治療だってそこがスタートだったんだけどね。もし寝ている時にここが夢の中だと分かっても1人では夢をコントロールすることって難しいんだよね」
「でも、今回の治療法なら……」
「そう、先ほど説明した手順で脳を活性化させることで夢の内容をコントロールできる。つまり、悪夢を治すどころか最高の夢の世界だって作れる。しかも他人の手は借りずに1人で眠るだけで」
馬場の新たな治療法は前半のあーだこーだいう原理を省くと、夢を見ていると自覚しながら見る夢の明晰夢を患者に見せることだった。しかもそれは自由にコントロールできるらしい。
悪夢治療と同じように馬場が作った装置の中で眠るだけで、夢の中に怖いものが出てきても本人が願えば一瞬で排除できる。そんな嘘みたいなことが実際にできるのかと思うけれど。脳に負担がかかったりもしそうだ。
「どう。凄いでしょ」
「はい……凄いっすね」
「あれ、意外と素直だね。そんなに簡単に信じてくれるの」
だけど、凛太は馬場のその信じられない話を信用してみることにした。だって……。
「だって、ここに来てから夢みたいな話ばっかなんですもん。どうせそれも本当なんでしょ」
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