第83話 最初のボス

 考えてみれば確かに俺はかっこよかったんじゃなかろうか。化け物たちに襲われる夢の中で、手を引いて一緒に逃げてくれる男なんて春山の気持ちになると恋をしてもなんら不自然じゃない。


 今まで春山が自分のことを好きな可能性なんて考えてこなかったけど気付かぬうちに手にしていた。


 凛太は洋館内のある鍵のかかった扉で、さっき入手した鍵を使った。大きな扉のその先は大広間で、映画のようにダンスパーティーが開かれていそうなお洒落で広い空間がある。


 立派なシャンデリアがあるのに明かりが無くて暗いその部屋では、真ん中に見知らぬ女性が座り込んでいて、その女性がプレイヤーに気づいて立ち上がると赤黒い球体が部屋にやってくる。


 球体は、プレイヤーと同じく洋館に迷い込んでしまったらしい女性に侵入して化け物へと姿を変える。それが最初のボスのような立ち位置にいる化け物だった。


 体全体が大きくなり、特に肩が肥大化する。肩の化け物となった女性はもの凄く奇抜な肩パットを仕込んでいるような体系になって、何故か腰に手を当てモデル歩きでプレイヤーを襲ってくるようになる。


 ……気持ちがハイになっていなければ、その姿を見て心が折れていたかもしれない。けれど凛太はボスの攻略法通り完璧に体を動かせた。ゲームでやるよりもスムーズにその化け物を処理してしまった。


 さらに凛太の快進撃は続いた。元々の予定では最初のボスを倒すくらいまで行けば悪夢の下調べとしては十分だと考えていたが体を動かすのが楽しくなってしまってさらに奥へと進む。


 どうせ20分くらいで現実に戻るのなら、それまで進めるところまで進んでしまおう。それで何か気づくこともあるかもしれない。


 確認しておきたかった項目は大体確認出来て、あとは馬場が裏技を提案する前から考えていたこの夢の中と現実とのタイムラグ……何時間攻略に使える時間があるのかということ。


 それに加えて、もし1度殺されて夢から覚めてしまった場合にゲームの進行状況はリセットされるのかということ。これの可否で難易度は変わるがどちらなのか。この2つだった。どちらも1度馬場に起こしてもらわないと確認できない。


 そろそろ体感では20分が経つんじゃないかという時にも凛太は化け物たちを引き連れて廊下を走っていた。なんだかもう余裕だと思えてしまう。こんなもんなら来週には絶対にクリアできる。


 それよりも春山が――ずっと思い続けていた春山が自分にあんなことを言った。この後に夢から覚めたらどんな顔をして会って、どんなことを言おうか。


「うおおお。春山さん愛してるよっ。天使っ。最高っ。結婚しようっ。」


 次の瞬間、調子に乗って廊下をノンストップで右に左に曲がり続けていた凛太はついに化け物と間近でぶつかって、ツッコミを入れられるように頭が吹き飛ぶほどの張り手をくらった。

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