第89話 告白

 患者が現実で夢から覚める前に……こうして患者を楽にしてあげなければならない……。治療するまでの道が物理的に長い悪夢の中、一応はそういう時間制限があった。


 しかも1回でもゲームオーバーになればまた最初から。たとえ臓器をえぐり取られようとも、自分の腹から消化器官が露出した感覚をすぐに忘れさってまた立ち上がらなければならない。


 そんな中で辿り着いた目的の部屋で無事に治療も終えられた。これで練習した努力が報われて、桜田と一緒に喜び合える。その幸せが目の前にあるから……凛太は聞こえてきた物音を、最初は気のせいだと思った。


「やったね草部君。無事にクリアできた」


「はい……」


「じゃあ、この奥にすぐ行こうよ。ラスボスに会いに。早くしないと悪夢が終わって消えちゃうかもしれないから。てか、もう消えちゃったか。患者さんすぐ寝ちゃったから」


「待ってください。ちょっと話があるんです」


 奥の部屋行こうとする桜田を止める。闇夜をそのまま迎え入れる洋館の一室、半身だけが月明かりで良く見える桜田に向かって、凛太は勇気を振り絞った。


「話?何?」


「あの、俺。実は桜田さんと2人で練習してるときに……桜田さんのことを女性として良いなあと思って。それで、もっと一緒にいられたら幸せだろうなって。だから、良かったら今度2人でどっか行ってくれませんか」


「……え、それって告白?」


「……はい」


 言ってしまったと思った。言ってから桜田の返答がくるまで凛太は頭の中が真っ白になった。


「ごめんね。私、好きな人いるから」


 そしてそれは……あっさり打ち砕かれる。桜田の言葉を聞きとる間だけ働いて、凛太の頭は再び真っ白になった。特に悩んだ様子もなく、軽く頭を下げた桜田を見たまま固まってしまう。


 そのタイミングで奥の部屋から聞こえてきた音は、もう気のせいなんかで見過ごせるものではなかった。


 ピアノを乱暴に壊したような、鍵盤の重い悲鳴と木材が割れるのが混ざった音。急に空間に響いただけで場の空気を支配するのには十分な音だった。


 続けて何の音かよくは分からない破壊の音が続く。この洋館内では化け物たちが暴れている時によく聞こえる音だ。


 まだ部屋に入っていないのにドアの奥で何かが暴れている。異常事態だ。だから、凛太と桜田は告白の件を忘れてその先に注意した。


 正体は自らドアを開いて部屋に入ってきた……。ゆっくり開くドアを見ながら凛太はそこから闇憑き洋館のラスボスが出てくるのだと思った。そんなことはあり得ないけど、これは所詮人の夢だしゲームにはバグが付き物だ。


 だけど、出てきたのは想像とは全く違っていた。


 いつも凛太の夢の中に出てくる病室で眠っている少女。凛太の悪夢の対象が歩いて部屋へ入ってきた。

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