第71話 3種類の化け物

 闇憑き洋館には大きく分けて3種類の化け物たちがいる。1つは体の一部だけが異様に大きく発達している化け物。もう1つは生物や物体の中に入り、それの形や大きさを変えて襲ってくる謎の赤黒い球体。そして最後にほとんど動かない白い巨人のような化け物。


 体の一部が肥大化した化け物たちはゲーム内では最もポピュラー。基本的には洋館を徘徊する奴らから逃げながら洋館脱出のため謎解きをしていく。肥大化している部分は化け物によって異なり手足から胴や首に、目鼻や爪まで名称がある部位ならどこでも。肥大化していない部分がそもそも3m近くはあろうかという人間のもので食べる為にプレイヤーを襲ってくる。肥大化していない部分も個体によって特徴は異なり、男だったり女だったり子供だったり、ピエロみたいなやつや刃物を持っている奴もいる。


 赤黒い球体はプラズマボールのような見た目をしていて、中で何かがうごめいている。これは洋館の中にある家具から虫や爬虫類、そして人の中にまで侵入し寄生して姿を化け物に変える。その変化のほとんどは全体的に大きくなり、ある一部分だけはさらに大きくなるというもの。生物に寄生した場合は球体が出て行っても活動を続ける。


 性質的にこのゲームのストーリ上で重要な位置にいそうな物体であり、個体数は1体だけ。実際にラスボスはこの赤黒い球体であったりするらしい。


 そして最後の白くて大きな人間のような生き物はただそこにいるだけの化け物。太陽にずっと当たっていないような青白い肌よりもっと白い肌を持っていてアルビノ生物のようである。徘徊する化け物よりも一回り大きな体をした彼らは洋館の部屋や廊下でただ立っていたり座っていたりする。


 動いている個体もずっとこちらに向けて手を振っていたり、ひたすら膝の曲げ伸ばしをしていたりするだけ。こちらから何もしなければ害はないが、逆に奇妙な恐怖を演出している。


 近づきすぎれば一瞬で殺されたり、場所や個体によっては部屋に入っただけでもの凄い勢いで襲ってきたりもする。凛太は怖さで言えばその白い化け物が一番苦手だった。


「次に行くのってこっちで合ってますか?」


「どうだろうね。もっと行ってみなよ……あ、そこの棚の中に身代わり人形あるよ。たしか」


「本当だ。このアイテムは何ですか?持っといたほうがいいです?」


「それはね。やりこみ要素みたいな奴だね。全部集めないとあんまり意味ないから今は気にしなくていい――」


 そういった化け物たちがひしめく洋館の中にはアイテムや化け物たちの誕生の核心に迫るメモが落ちていたりする。ちなみに「身代わり人形」というアイテムはゲームオーバーになるときに一度だけその場で復活できたり、投げれば一定時間化け物の注意を引いてくれる。


 そういったアイテムを駆使しながらどこかから脱出するというのはホラゲーの王道で、闇憑き洋館はその中でも新しくクオリティが高いホラゲーの集大成のようなゲームだ。やってみた分かったのはホラゲーに興味のない凛太でも流行るだけあって面白さも感じられること。


 謎解きや演出に手が込んでいるし、化け物から逃げ切った時の爽快感もある。良い意味でも悪い意味でも期待を裏切らない。化け物が出てきそうな部屋からは絶対に何か出てくるのだ。


「このくらいで大体進行度は15%ぐらいってところかな。どう?今のところのやってみた感想は?」


 一旦落ち着けそうなセーブポイントまでやってきたときに桜田が凛太に聞いた。そのとき凛太は1時間半ぶりにようやく桜田の目を見た。


「……正直ですね。思ったより面白いですね」


「でしょ!でしょでしょ。分かってくれた」


「はい。こんな怖いだけのゲーム何が面白いねんって思ってたんですけど。やってると引き込まれちゃいますね」


「そうでしょ。うわ嬉しいな。分かる人だね草部君は。私も今日は楽しめそうだ。どうするきりが良いしここでちょっと休憩する?」


「いやもうちょっとやっていいですか。先が気になります」


「うん!いいよいいよ。どんどんいこ。えいっ」


 桜田が不意に手を伸ばし、凛太の手に重ねてコントローラーを操作した。メニュー画面を閉じて安全な部屋から主人公を外へ出させる。


「はい。どうぞ」


 その時の桜田からの手の温もり、近づいた体で凛太のハートはさらに燃え上がった。恋の暴走列車が猛スピードで走り出した瞬間だった。

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