第33話 いかにもな

 夢の中の暗い道を進むにつれて、地面は荒んでいった。歩くアスファルトにはひびが入っている部分が出てきたり、でこぼこと膨らんだりへこんだりした部分が出てきた。


 それは歩を進める毎に、少しづつ増えていった……。


 初めはどこの住宅街でも人通りの少ない道であれば、ちょっと角を曲がると見かけるような荒れ具合であったが、行き止まりまでたどり着くころには人のいない山にでも繋がるのかと思えるような歩きづらいったらない道になった。


 そして見上げた行き止まりの一軒家はいかにも嫌な雰囲気を纏ったものだった。


「ここが、その気持ち悪い奴がいるって場所なんですか?」


「はい。ここです。お願いします」


 凛太は見上げる建物にゆっくり近づきながら患者の女子中高生に確認する。聞かなくてもなんとなくここなんだろうなということは分かるが。


 周りの家と違って、この家だけが廃墟のようになっていた。今立っている道と同じで壁にひびが入っていたり、屋根が欠けているところがある。


 元々の家の構造自体は特に珍しいつくりではない。現代の日本で一般的と言える白色の壁に黒色の三角屋根。けれど、もう一つ周りと違う部分を挙げると三階建てで底面の面積も充分にあるということ。少しリッチな家庭が暮らしていそうな豪華な家だ。


 そんな家が建てられてから随分と住む人も管理する人もいなかったという具合に汚れている。凛太の想像する悪夢は丁度こんな廃墟を舞台に繰り広げられるイメージだ……。


「了解です。一応聞いておきたいんですけど、気持ち悪い生物ってどんなのですか?」


「嫌っ」


 凛太が女子中高生に尋ねると、彼女はその場でしゃがんで小さくなった。


「あ、すみません。話すのも嫌なら無理しなくても……」


「こちらこそすみません。想像したくもなくて」


「そうですよね。さっさと行って見てきます。そんで、やっつけてきますよ」


 急に驚くので、凛太もあせってしまった。明るい態度を装い柄にもない言葉で勇気づける。


 しかし、内心はそんなに驚くほど気持ち悪いのがいるのかと不安になった。そもそもこんなところに入っていくのも嫌だ。何しろ家の入口からもう蜘蛛の巣が張っていて玄関の扉が無い。


 踏み出した足を引っ込めることもできないので、凛太はとりあえず家の門を開けた。黒板を爪で引っかいたような音を立てる金属製の門。本当にいかにもな場所だと後ろの二人には見えない位置で顔を歪める。


「じゃあ患者さんはここで待ってますか?見たくないならそっちのほうがいいですよね」


「はい。そうさせてください」


「それでいいよね春山さん」


「うん。私たちだけで入ろうか……」


 玄関の前にちょうど家の柱の破片か、固そうでちょうどバットくらいのサイズの木材が落ちていたので拾う。その木材で蜘蛛の巣を払った。


「あの……殺してくださいね」


 春山と二人、中に入ろうと進むと門のほうから声がする。さっきまで怖がってしゃがんでいた女子中高生が立ってこちらを見ていた。


「はい」


「絶対に……殺してやってください」

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