第76話 やばい悪夢
「それでどうするんすか……やるんですか今日」
「うん。まあ患者さんには頑張りますって言っちゃったよね」
凛太は馬場を見たまま言葉を失った……。後ろでロッカーの前にいる春山と増川もこちらの話を気にしているようにこちらを見ていた。
「だってしょうがないじゃないか。患者さんが家じゃ眠れなくて苦しいからここで眠りたいって駆け込んできたんだから。予約はされてなかったけど追い返す訳にもいかず」
「そうなんですか……」
「治らなかったけど前にここで寝たときはいつもよりも夢の中で化け物が襲ってこなくて楽だったんだって。草部君たちが引き付けてたからかな。それで約束の日よりも早く来ちゃったんだよ」
先日に馬場からのメッセージで聞いた話ではその患者さんの再治療の日は今日からちょうど一週間後となっていた。当然凛太も今日いきなりでは準備が出来ていない。
「次に来た時には必ず治療してみせますとも言っちゃってるしなあ。だからできればちゃんと治してあげてほしいだけど……どう?頼める?」
「いや……正直に言って無理ですね」
「やっぱそうなの?」
「100%無理って訳でもないですけど……化け物に見つかる前に運よく患者さんを見つけられれば。この前話してた患者さんが夢の中で具体的にどこにいるかって聞いてくれましたか」
「それは聞いたよ。でもね、場所はランダムだって言ってた。あとは大体洋館の奥のほうでゲームはやらないから詳しく知らないけどラスボスの前の部屋に逃げ込むことが多いとも言ってたね」
「あ、じゃあほんとに無理っすわ。すみません」
凛太が謝りながらもお手上げのポーズを取ると、馬場も茶化すように真似してお手上げのポーズをした。
患者がラスボスの手前にいるなんて最悪のケースだ。つまりは夢の中で自分の体を使って闇憑き洋館をほぼクリアまでいかないといけない。しかみノーミスでさらには時間も無限にある訳じゃない。それこそRTAのような動きが要求される。
それは熱心に練習をしている今の凛太でも絶対に無理だと思えることで、もっと言うと1週間後に桜田と一緒でも難しい気がする。
「そんなにやばいんすかその患者さんの悪夢」
気になる話題に痺れを切らしたようで、増川が奥から歩いてきて会話に割り込んだ。
「やばいっすね」
馬場は何か考え込み始めたようだったので凛太が答える。
「桜田さんが何回も挑戦して治せないくらいだもんね」
「私、昨日桜田さんに会ったんですけどめっちゃご機嫌でその悪夢の話してましたよ。だから本当にやばいんでしょうね。ゲーム自体すっごく怖いやつですし」
続けて春山も会話に加わる。桜田に現を抜かしている最中だが近くで見る春山はやっぱり眩しいくらいにかわいい。
桜田が喜ぶ悪夢がやばいというのは全従業員共通の認識だった。
「今日この3人でやってもたぶんどうにもなんないと思いますよ。増川さんでも久しぶりに怖いと思うんじゃないかってレベルです……」
「でもまあ、やるだけやってみてよ今日のところはこの3人で」
悩んでいたようだったのに馬場から出た言葉は結局いい加減な答えだった……。
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