第75話 ストイック
音量を小さくして視聴したRTA動画の中ではプレイ中苦労させられた化け物たちがまるでペットの動物のように軽くあしらわれていた。超効率的な動きで化け物を撒く時間も最小限、そんな危ない道を通っていいのかという場面もあったがするりと化け物の手を掻い潜っていた。
それはあんなに難しかったはずなのにすごく簡単そうに見えて、通常プレイでは思いつきそうもない動作もあったので目から鱗だった。ホラゲーなのにもはや怖くないその動画は見ていて笑えそうなくらいだった。
すぐには難しいだろうけど近いうちに凛太もこのRTAプレーヤーの半分くらいの実力になりたいと思った。
次の日は今度予定されている悪夢治療の練習に加えて、通常のバイトのシフトにも入る必要があった。凛太は起きてからバイトに行くまで闇憑き洋館の練習をして、バイト中も暇な時間には頭の中で動きをシュミレーションした。
その日のバイトはワイルドな男の宮部と一緒で、簡単な夢の中また宮部の奇行に付き合わされた。まだ数を多く宮部とシフトに入った訳ではないが宮部と一緒の時は悪夢の難易度が低めな気がした。こういう人間こそ運が良かったりする。
今回の宮部は下ネタの話が多めで夢の中での行動はただの下着泥棒だった。女性の部屋を探して侵入して下着を漁る。まったく桜田は月から来たお姫様でトイレで用を足すことも無いのに酷い落差だ。
さらに次の日の予定も大体そんなものだった。起きてからバイトに行くまで闇憑き洋館の練習をして、バイトに行って、帰ってきてからまた練習。風呂や飯に睡眠には使いたいだけ時間を使うもののプライベートな時間で無駄な休憩時間は取らない。
大学生の夏休みにしては中々ストイックな生活だったけれど凛太は全く辛くはなかった。この生活のすぐ先には幸せな時間が待っている。恋のエンジンはまだまだ全開だ。
朝目覚めた凛太はすぐにベッドから出て予定をこなしていった。昼の朝飯を食べながらホラゲーをする……。桜田が家に来てから1日と半分で凛太は既にもう闇憑き洋館を3周していた。クリアタイムは回を追うごとに2時間3時間と縮んでいった。
接敵した時の最善の行動もすぐに分かるようになってきて、これだけ上手くなっていればきっと桜田も驚くし喜ぶ。
夜の昼飯を食べた凛太はバイトにも元気よく向かった。今日のシフトは2人と一緒でメンバーは春山と増川。とまと睡眠治療クリニックのバイトの中では正常な2人だった。
3人でシフトに入るということは患者の数が多いということだがこの2人と一緒であればまったり仕事に励めることだろう。
そんな思いでバイト準備室に入るとそこには春山と増川、そして何故か院長の馬場がいた。
「おはよう草部君待ってたよ。それでいきなりなんだけどごめんまずいことになった」
「おはようございます。どうしたんですか」
「この前のホラゲーの悪夢の患者さんがどうしても家じゃ眠れないからここで寝させてくれっていきなり来ちゃった」
「マジですか」
珍しくバイト準備室で出迎えた馬場はかなりまずいことを口にした。
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