第77話 別ルート
「あの患者さんの悪夢はきつくなったらその時にすぐやめていいからさ。先に他の患者さんの悪夢を片付けたらちょいちょいっと無理しない程度に頑張って……どう草部君?」
「僕はいいですよ」
凛太も話を聞いてから色々と考えたけれど、これはこれで練習になって良いかもしれないというのが答えだった。
おそらく1度はまた死ぬ経験をすることになるかもしれないが、逆にそうなっても実践で練習しておく必要がある。できれば必要な情報だけ集めて患者と同じようにどこかに隠れられればいいが、桜田と本番に臨む前にもっと頼りになる男になっておこう。
「増川さんと春山さんは大丈夫なんですか?」
「俺は一緒に行くよ。というか行きたい。そんなやばい夢なら逆に見てみたくなったね。草部君や患者さんには申し訳ないけどお化け屋敷にいくような感じで」
「私は……どうしよっか」
増川は気楽なようだったが春山は言葉に詰まる。
「無理しないでいいよ」
言ったのは馬場だった。凛太もそう思ったがかっこつけてしまうように思って言うのが遅れた。
「2人が行くのに悪いと思ってるんなら気にしなくていい。春山さんなら草部君も増川君も許してくれるよ」
「いや、でも……私も行きます。もしかしたら何か役に立てて、私がいることで今日で悪夢を治せるかもしれないし」
「うーん。それは難しいんじゃないかな。桜田さんと草部君が随分挑戦して無理だったしね。まあまた後でその時が来たら聞くよ。僕もそれまでできることはないか考えとくから。それじゃとりあえず今日も頑張って若者たち」
馬場が部屋から出ていく。凛太は馬場と同じように先の悪夢でどういった風に動こうか考えながらロッカーへ歩いた。
ついでに増川と春山もそろそろ時間なので部屋から出て行ったような音がする。
急に状況が変わって頭が回り始めたので、目がやたらと景色を鮮明に捉えて背中からじんわり汗も出てくる。それが考えを邪魔するのでさっさと今着ている服を脱いで制服に着替えたかった。
皆出て行ったことだし着替え室を使わないで上半身を露出した。そのとき後ろから声がした。
「草部くんはどう思う?」
「え」
バイト準備室にはまだ春山がいた。考え事をしながら勝手に増川と出て行ったと認識していたがドアの所にまだ立っていた。
「ど、どうって何。えっとさっきの悪夢に春山さんも行くかどうかって話?」
凛太は反射的に女が着替えを覗かれた時のように服を抱いてしまって、その情けないポーズを自然にごまかしながら対応した。
「そう。私が行っても役に立たないかな?」
「えっとまあ……正直なところかなり難しい悪夢だから。桜田さんとじゃないと無理かな」
「そっか。そうだよね……私なんかじゃね。桜田さんと一緒に練習してるんだもんね。頑張ってね」
な、なんだ……あれはぁ……。
部屋から出ていった春山は凛太の目にはなんとなく桜田へ嫉妬しているように見えた。
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