第78話 裏技
春山が怖くても自分の役に立ちたかったという認識でいいのだろうか。先程の春山の言葉の言い方と首の落とし方、自分に断られたのを落ち込んでいるように凛太は見えた。
関係がぎくしゃくしてから久しぶりに話しかけてきたと思ったら、男子大学生がビンビンに張っている俺に気があるのかセンサーが反応するような態度だった。
わざわざ2人きりになるのを待って……しかも、桜田さんと練習していることを知っている……。
待て。考えすぎだ。考えすぎだし、今はもっと他に考えることがある。ただ気になることを聞いただけだろ……。
着替え終わって凛太もパソコンの部屋に入るとすぐに早速1人の患者が悪夢を見始めた。今日は予定では4人の患者を治療することになっていて、さらにその後で例の患者の悪夢がある。雑務をする暇もないし、休憩する時間もいつもと違ってあまりないだろう。
「今日は最後にやる治療が気になるだろうし草部君は手抜いてていいよ。代わりに俺がちょっと頑張るから。あんま難しいのもなさそうだったしね」
「ほんとですか。すげえ助かります。ありがとうございます」
増川に優しい言葉をかけられる。しかし凛太はそう言われる前から悪夢ファイルを数しか見てないほど他はやる気が無かったので、少し増川に申し訳なくなった。
頑張るというよりもこなすといった感じだった4人の患者の悪夢は現実時間の3時間程度で片付いた。増川に言われた通りに先の悪夢の作戦を立てることに脳の容量を使っていたが、凛太もそれなりの働きはできた。もうこなすだけでも力になれるくらいこのバイトに慣れてしまった。
紙にメモするほどの余裕は無いので考えては頭の中に刻んでいった今日確認すべきことは上手く纏まった。今日クリアする気は凛太にはさらさら無くて1週間後の先を見通した確認事項だった。
逆に今日クリアできてしまったら桜田と練習するという約束がなくなってしまうかもしれない。
「これで元々予定してた患者さんは終わったね。じゃあ……既にもう1人の患者さんの悪夢も始まってるから行ってくれるかな。少し休憩とってもいいけどどうする?」
「すぐ行きます」
本来なら時間が余ったのなら雑務をこなしながらダラダラして時間よりも早くあがらせてもらうという運びだが大きな壁があった。その壁を前に重くなった空気の中、馬場が言った言葉に凛太は即答した。休憩したほうが踏み出せなくなりそうだったからだ。
「そうか。春山さんは結局どうする?」
「私も行きます」
「本当?大丈夫?」
「はい」
「分かった。じゃあ皆に僕の考えたお助け機能というか提案があるんだけど」
馬場はそこから得意げになって夢の中に入る装置の前で語りだした。
「いつも悪夢治療が完了したのを確認したら僕が皆を起こすように装置を動かしてるよね。それをみんなが寝たらすぐにやるから。みんなは上手いこと死ぬ経験をしないように起きるまで逃げててよ。そんな作業を繰り返していく。そのほうが楽でしょ」
「そんなことできるんですか。それ凄い良いアイディアですよ院長」
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