第79話 夢についての長話
「できるよ。簡単に。草部君にはまだこの話してないかな。現実世界と夢の世界の時間の進行速度の感じ方って諸説あるけどこの装置を利用した場合には夢の世界でのほうが倍ほど早く感じるのね。つまり、夢で過ごしているときに現実ではどんどん時間が過ぎていて大体夢での10分は現実での20分ってとこなの」
「へー」
「それも夢によって1.5倍から2.5倍くらいまで前後しちゃうけど。いつも僕が君たちを起こすときに時間があるときは君たちの体を気遣って1時間くらいかけて起こしてるけど、今日みたいな忙しい日は30分で起こしてる。最低でも20分は起こすのに時間をかけないと体に悪かったりするんだけど。まあその話は今置いといて……」
それからまだ馬場は続けて知識をひけらかすように長々と語った。
「ちなみに夢の研究をしている人は世界中にいて、夢と現実の時間間隔については学者によって唱える論が違う。どれも夢で過ごした時間は現実で過ぎた時間以下ではあるけどその倍率についてはほぼ同じという人もいれば10倍以上だという人もいる訳で。こんな話を聞いたことがあるかな。高所から落下する夢や空を飛ぶ夢を見ている最中にベッドから落ちて夢が覚めたとか」
「はい。あるあるみたいな感じですよね」
「あれって現実でベッドから落ち始めてから落下する夢を見てるっていう可能性があるんだよね。ベッドから落ちるたった数秒の間に長い夢を見る。本来人間の脳にはそれくらいの情報処理スピードが備わってるんだよ」
「へー。面白いですね」
凛太と春山と増川の3人は時間潰しも兼ねてその話を聞いた。馬場は夢や悪夢について語りだすとたまに止まらなくなるが、凛太はその話にそこそこ興味を持てた。
「僕はそうやって色々研究されている夢についてかなり知っているほうだと思うんだけど、僕の調べでは全部が正解だね。なぜなら夢という現象は本当に深い分野で、見ている夢の内容でも時間間隔は変わることも実験済みだから。いやあ誠に面白いよ……ああ、そうだ悪夢に入るんだったね。今回は40分かけて君たちを起こすから、20分前後で勝手に夢から覚めると思う」
ようやく馬場がその気になって他の3人は兜の尾を締める。凛太は自分がさっき頭の中で纏めたことを再確認した。しかし、馬場は装置に入る間も凛太に話しかけてきた。
「それにしても今回の患者さんの想像力は凄いものがあるね。そんなに難しい悪夢を見るなんて」
「え、凄い悪夢を見るほどそうなんですか」
「うん。そもそも夢を見るって言うこと自体、感性が豊かな証拠だからね。リアルな夢や毎日見る人はそれ相応に想像力がある人ってことだよ。まあこれも逆もまた然りじゃなくて感性が豊かな人が必ずしも夢を見るって訳じゃないとかもあるんだけど。それじゃあいってらっしゃい」
「へー……」
凛太は装置に入るとき、病室で少女に殺される夢はかなりリアルで強力だと思うが自分も感性が豊かなのかとちらりと考えた。
目を閉じたときにはリラックスしつつも心臓の当たりを掴む。もう死ぬ経験は心底嫌だ。しなくていいのなら絶対に逃れてやる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます