第80話 再現度
この前と同じように始まった場所は森の中だった。凛太にとってももう見慣れてしまったその森をものの数分で歩いて抜けた。
洋館までたどり着くと、増川と春山は初見時の凛太と同じような反応をした。いかにも不自然で怪しい洋館を前に、これから恐怖が待っていると分かっていながらもそれがどれほどか分からない。だから怖がりながらも洋館に入るときに躊躇は無かった。
入口の扉では凛太がドアノブを握った。凛太はもうこの先に何がいるか知っていた。
たぶん、この夢に入る中で今回が1番怖い。恐怖を感じる。中途半端に知識を付けてしまっているから、それから完璧に逃げ切る自信が無いから。
増川と春山のことはおそらく守ってあげられないだろう。何を思ったか春山もここに来てしまったが申し訳ない。自分の目的を果たすのに精いっぱいだ。やれるだけのことはやるけど……。
「これ……すごいね。このゲームちらっと見たことあるけど完全に再現されてるじゃん」
「はい」
「……で、これが化け物の足音か」
「ですね。こっからはなるべく喋らないでください。僕だけが声を出して行先を言うので少し後ろに付いてきてください」
「了解」
凛太は言った後に固唾を飲んだ。その場まで来たら受ける印象はまるで違っていた。ゲームでは慣れてきた風景なので余裕を持てると思ったが、実際に感じる空気は画面の向こうのものと比較にならないほどじめじめしていて重い。
「春山さんも大丈夫?」
春山はもう声を出す余裕もないようで、ただ数回頷いた。この場でこの子をどこまで守ってやれるやら。
「まずは階段を上って左に」
凛太は決めていたルート通りに洋館内を進み始めた。まずは敵になるべく遭遇しないように。
廊下もいくつもある部屋も電気が点いていたり付いていなっかたりする。明るい部屋があるからこそ暗い廊下や弱弱しい明かりの怖さが際立つ。そして明るい部屋にも容赦なく化け物が侵入する場合がある。
凛太はある部屋に入った時に、奥に並んだ棚の右から二番目の真ん中の引き出しを開けた。一つだけ血の付いた手袋が置かれている棚の中にはストーリーを次の段階に進めるのに重要な鍵がある。
そしてそれを取って振り返ると……そこには今までは無かった「見ている」という文字が壁に無数に浮かび上がってきていて、入り口の近くで寝ていた白い化け物が目だけを開いてこちらをじっと見る。
まず確認したかった項目はゲームがどれだけ忠実に再現されているか。攻略に必要な道具はゲームと同じ場所にあるか、条件を満たした時に起こる現象は同じか……。
確認の為に取った最初の行動だけでは確信は持てないが、白い化け物の見開く大きな目を見た凛太は再現度を信用してもいいと思った。
さらにその後、不快な接敵BGMが流れ始めて部屋にランダムで化け物が入ってくる。
「2人ともこっちへ」
初見では気づきにくいがその部屋には身を隠す判定になる場所があった。3人では狭いベッドの下で、化け物の足音とBGMが静かになるのを待つ。
床につく手から汗が滲んできて、隣に見えないように目をつぶる。すぐには向き合う勇気が出ないが1度は追いかけられて確かめたいことがある。
「もしあれだったら、2人はここに残っててもいいですよ。序盤ではここは結構安全な場所なので」
そう言ってベッドから出たが増川と春山も一緒にベッドから出た。2人から見れば凛太は頼もしく見えているのだろうが、凛太はその段階でかなり精神に来ていた。
次に目指した部屋への道の途中で思いがけない接敵をする。BGMは敵が近いほど大きくなるがいきなりの大音量。少し特殊なその敵は突然後ろに出現する。
「2人とも。後ろに何かいる感じするけど絶対に振り向かないで――」
「え」
前を向いたまま急いで言ったが、その後すぐに増川の悲鳴と血が飛び散るような音が後ろから聞こえた。
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