第49話 雑務
「チェックするのはこの棚にある薬品ね」
「はい」
「まあ、この辺に種類ごとに分けられて置いてあるわけだけど、これをこうやって見ていって少ないのがあったらここに書いとく」
とまと睡眠治療クリニックのとある一部屋。倉庫として使われている部屋で凛太は増川に雑務の説明を受けていた。
「大体見ても減ってることは無いんだけど、これ……この辺に置かれてるダンボールだけは絶対見ておいて。これが一番減っていく奴だから」
「はい」
バイトを続けることにした凛太には色々と暇な時間にやることが教えられることになった。悪夢が始まる前の時間に増川が倉庫の棚の前で並ぶ段ボールの1つを持ち上げた。
「これ。何が入ってるか分かる?」
「薬ですか」
「うん。当たり。ちなみに何の薬か分かる?」
「えっと……」
増川が抱える段ボールにはアルファベットとカタカナの名前をした何となく薬っぽい白い箱がたくさん入っていた。隣の段ボールには錠という文字が見える袋も入っている。
「この辺の薬はね、全部睡眠薬」
「へー。これ全部ですか」
「うん。やっぱこういう病院だから睡眠薬はたくさんあって減るのも多い」
凛太は睡眠薬の多さに興味を持って、1つを手に取りどんなものか観察した。凛太が手に取ったものは一般的な薬と見た目は変わらない固形の錠剤らしかった。
「一口に睡眠薬って言っても色々あるらしいよ。強力なやつとか、目覚めるのを妨げる用や寝つきを良くする用でも違うんだって」
「へー。そうなんですか」
「この各段ボールに詰められた薬が、大体3分の1くらいかな。そのくらい減ってたら、ここに薬のリストがあるから薬の名前見て同じ奴にチェック入れる。そしたら院長か昼の看護婦さんが発注してくれる」
凛太にとっては少し久しぶりに会うように感じる増川は相変わらず親しみやすい眼鏡で、説明も分かりやすかった。凛太が質問しなくても余すことなく仕事内容を教えてくれる。
「それにしても草部君が続けるとは思わなかったな。このバイト。明らかにやめる雰囲気だったじゃん」
「はい。僕もそのつもりだったんですけど……」
「何か考え方変わったの?」
「いや……はい。なんとなく」
増川はこの前の二重人格の悪夢について聞いていないようだったし、凛太も話さなかった。
「いいと思うよ。本当に慣れれば楽で稼げる良いバイトだし。草部君には続けるメンタルありそうだし――」
そんなやり取りの後、増川と2人で夢の中に入った悪夢治療は簡単なものだった。大して怖い思いはせずに、辛いことや苦しいことも無かった。
さらに言うと凛太のその次のシフトでもそれは同じだった。桜田と一緒だった悪夢治療も難なく終わった。
それというのもベテランの先輩2人が頼もしすぎた。怖いという感情が欠落してしまって無いようにも思える増川と桜田は凛太が難しいことをしなくても1人で治療を片付けていった。
その悪夢自体強烈なものでもなかったが、物怖じせずに霊らしきものに立ち向かい、患者を安心させるのも上手だった。バイトを続けることに決めた凛太が感心して2人の仕事ぶりを見ていると治療は終わった。これから慣れていこうという気を持ってから見ると、すごく経験になるものだった――。
「明日は宮部君とか。草部君は宮部君に会ったことないよね?」
桜田とのバイトが終わった時に準備室でシフト表を見ながら桜田が言った。
「はい。初めてですね。どんな人なんですか?」
「私と同い年の男の子なんだけど、ちょっと変わった人だね。だから明日は頑張って」
「変わった人?明日初めて会うから気にはなってたんですけど……」
「うん。変わってるよ。悪い人じゃないけど。でも草部君とは馬が合うかもしれない」
とまと睡眠治療クリニックでバイトをしているもう1人の男「宮部」。名前だけは凛太も把握していて、明日はその人と初めて2人でシフトに入ることも分かっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます