第65話 ゲームスタート
洋館の中に入って1歩進むと後ろの扉は勝手に閉じられた。鍵が閉まる音も聞かせるように暗い空間へ響いてきた。想定内と言えば想定内。ここから出られなくならなければホラーゲームが成り立たない。
迎えたエントランスもおかしなところはなく、一見したところでは誰もがイメージするような洋館の内装だった。天井にはシャンデリアで正面には大きな階段があった。右にも左にも廊下が伸びている。
床の絨毯も……飾られた花瓶も本物そのもの。最新のゲームだからか実際に山奥の洋館に入ってきてしまったようで何一つ違和感がない。
照明なしで壁のロウソクだけがまばらに灯っているエントランスはまあ不気味だ。こんな洋館の奥には行きたくない。普通に怖さを感じる。
だけどそれより緊張感を届けるのは洋館のどこかから聞こえてくる大きな足音だった。ひょっとしたら足音じゃないかもしれないが、規則的な重い音が洋館を右から左へ移動しているのは音で分かる。
「桜田さん……この足音近づいてきてませんか」
「……そうだね」
「いいんですか。ここにいて」
「…………」
凛太の聞いている感じでは近いうちに足音の主がここから見える2階の廊下から現れそうだった。
なのに桜田は固まったようにそこに立ったままだった。
「あの桜田さん?」
桜田に限ってここに来て怖くなったなんてことはないと思うが逃げなくていいのかと思う。足音から遠ざかるのであれば1階の廊下のほうへ進めそうだ。
桜田が動かないまま、重い足音は確かに一歩一歩近づいてきていた。もうそこまで来ている感じがする。あと十秒もしないうちにあそこを通り過ぎる。開けている広間のほうをちらりと見るだけでこちらの存在にも気づくだろう。
そこで凛太は前に立つ桜田の正面へ回り込んだ。ゆらめくロウソクの光の中で桜田の表情が目に映った時、凛太は「こいつ……」と思ってしまった。
少女のような笑顔で上を見てやがる……。
「桜田さんっ」
「大丈夫。あの足音はたぶん3階。聞きなれてるから分かるの」
振り返って耳を澄ます――。たしかにもう正面に足音は来ているのに何かしらの化け物の姿はなかった。
「でもね。他の奴があそこから出てくる」
凛太がもう一度桜田が指差したほうへ振り向くよりも前に音楽が洋館内に響いた。その不気味さに一瞬体が強張る。
そして目にした二階の階段からは化け物が下りてきていた。いくらか数がいるこのゲームでプレイヤーを殺しに来る化け物たち。凛太も見たことがある奴がいたが最初に出会ったのは手だけが異様にでかい化け物だった。
闇憑き洋館に出てくる化け物は一応人の形はしているものの全てが奇形。手が大きい化け物は体と足が貧相なので移動も二足歩行を手で支える形で行う。
手の化け物はこちらに向かって4つの足音で素早くこちらに向かってきていた。
「草部君。あいつのこと抱きしめられるかなっ」
「いやちょっと。桜田さんやめて」
どうする時間もないまま桜田は手の化け物に向かっていった。手を広げてお互いに全速力でぶつかろうとする――。
次の瞬間あっけなく桜田は敗れた。
最強の桜田があんな化け物をどう捌くのかと見ていると、目で追えないくらいの速度で化け物の手がのどに刺さった。
桜田の首が引き裂かれて首の骨が露出している。衝撃で血が飛び散り、桜田の目も今にも零れ落ちそうなほど飛び出した。骨だけで支えられる頭は後方へ90度折れる……。
「え……」
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