第63話 味方はチート

「このゲームってクリアまでどのくらいかかるやつなんですか?」


「聞く?聞いてくれる?」


「はい」


「えっとねー。人によるかな。とにかくかなり難しいからホラゲーに慣れてるかどうかでかなり変わると思う」


「かなりか。へー」


「早い人だったら初見でも3時間とかでクリアしちゃうのかな。私なんかもそんなにゲームの操作が得意ってわけじゃないけど5時間かからなかったくらい。慣れてるから」


「ホラゲーやったことがない僕がやったらどのくらいかかりますか?」


「うーん。8時間か9時間くらいじゃないかな。遅い人は10時間超える」


 ずっと嬉しそうに話をする桜田。凛太はホラゲーに詳しくないから分からないがクリアに10時間もかかるのはホラゲーとしては相当長いんじゃなかろうかと指折り数える。


「本当に慣れで変わるのこのゲームは。何というかホラゲーの王道をしっかり押さえてくるんだよね。ホラゲーって謎解きとかもあるじゃん。それもこのパターンかって好きな人なら分かるんだよね。これが凄くて凄くて。分かってくれる?」


「分かんないです」


「駄作のホラゲーは例えるとカツ丼の匂いがするどんぶりの蓋を開けると海鮮丼が入ってるみたいな。怖いやつがでてきそうなところで出てこないとか。でも闇憑き洋館はデラックスロースカツ丼が入ってるんだよね」


 どんぶりを開けるジェスチャーをする桜田は実際にカツ丼を目の前にしたかのように幸せな表情もした。それを見た凛太は今日もこの人が1人でなんとかしてくれるんじゃないかと思った。


 桜田は強いのだ。おそらくこのバイトにおいて人類で一番強い。いくらか他の同僚と仕事してきたがこの病院のバイト内ではぶっちぎりで強い。


 頼りになるのではなく強い。このバイトをしていれば怖さに耐性ができてくると思うが普通は0にはならない。桜田は怖いという感覚がそのまま面白さに変換されているようなのでどんな化け物を見ても一切臆さない。


 霊を見たときに喜んで近づいていくそのヘンテコな明るさはそれだけで患者を治療するほどの力があった。ある日のバイトで夢の中の霊に襲われていた患者は、霊をダッシュで抱きしめる桜田を見てあまりのあり得なさを感じ取り夢だと悟った。凛太は何もしてないのに桜田がありのまま生きるだけで患者は救われた。


 ゲーム用語でいうなればチートだ。このバイトへの適性が異常な数値になっている。


 その後も闇憑き洋館について熱い説明をしてくれる桜田を見て、凛太も心配するのがアホらしくなった。桜田のサポートをしていれば難しい夢もあっけなく終わってしまうかもしれない。


 赤いランプが光ると桜田はすぐに「きた!」と言って立ち上がった。

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