第93話 予約が取れない病院
凛太は落ち着かない休みを1人で過ごした。ベッドに入りながらも眠るに眠れない休日だった。じっと目を閉じていても眠りに入れない。ただずっと良からぬ考え事が頭を回っていた。
1日先……いや、5分先10分先に何もないことを祈っていた。ふとした瞬間にあの少女が隣に来る気がする。今頃自宅マンションの階段を上っていて、あと少しで玄関の呼び鈴を鳴らすんじゃないかと。
昨日起こったことをまだ現実だと信じたくない。あの少女が他人の悪夢の中で歩き、自分を追っていた。一体どうして。
昨日はまた凛太の最も怖い経験が更新された日だった。そしてそれが今までの同じ日とは違っているのがまだ問題が解決していないこと。
スマホを見ている時も良からぬ連絡が画面にポップしてくる気がして落ち着かなかった。おそらくその連絡の相手は馬場からだった。
問題を抱えていながら凛太はそれを報告せずに帰った。あんな化け物がいながら患者の悪夢治療がちゃんと終わったはずがない。きっと今頃問題が発覚しているに違いない。
装置の故障かもしれないけど、その問題の原因は少なからず自分にもあると凛太は思っていた。もちろん自分の悪夢が患者の悪夢と混ざっていたからだ。
なぜにああなったのかを考えたところ素人の予想では、自分の悪夢が悪化しすぎて溢れ出し、他人の夢の中にまで影響を及ぼした。こんなところだった。
仮にそうだと仮定すると、その責任は自分にある。馬場にも悪夢を見るようだったら話せと言われていたのにこれも先送りにしていた。
謝らなければならない。もし自分のせいで馬場や桜田に迷惑をかけたのなら正直に話して謝罪しなければ……。
でも謝ったところで、問題は解決しない。その後に残った自分が抱える強力な悪夢はどうなる。今までの経験上ではあんなに恐ろしい少女が出る悪夢を凛太は知らなかった。
その悪夢の治療はとまと睡眠治療クリニックに頼るしかないが、一体誰に絶大なホラー体験をしてこいと頼めるだろうか。
バイトに慣れてきてホラー耐性がついてきたように振舞いながら、毎晩悪夢を見ていることが同僚にバレるのも嫌だった。凛太はそれが恥ずかしいという認識だった。春山にも好意を抱かれているというのに情けない。
――結局休日には凛太のスマホを鳴らす連絡は1つも来なかった。馬場が出てきた赤い光の部屋のことも含めて、全てが杞憂であることを願いながらまたバイトへ向かう。
このまま隠し通せるなら自分の悪夢もどうにかして自分で治す。その覚悟のもと病院の入り口を開くと、そのタイミングでは聞きなれない音が廊下に鳴り響いていた。
電話の音だ。1つではない。少なくとも2つは重なっている。
「わっ」
突然後ろから声がすると、凛太は反転しながら躓き、その場で尻もちをついてしまった。それほど驚いた。
「はははっ。何や兄ちゃん驚きすぎやろ」
立っていたのは宮部だった。うるさいほど大声で笑っている。
「ちょっと……何すかいきなり」
「いやいや悪いなあ。兄ちゃんがぼーっと立ってるもんやからこっそり近づいてやったんや。それにしても驚きすぎやろ」
「もう。自分でもびっくりしてますよ。こんなに驚くなんて……」
何でこんな時間に電話が鳴っているのかを考えると自分が関係している気がしたから凛太は考え事に集中していた。
「宮部さん。何で電話なってるか分かります?」
「そりゃあれよ。なんか昨日からね、もの凄い患者さん来よるんよ。昨日もすごかったで。10人以上おったわ。馬鹿みたいに忙しかったから深夜からでも応援呼ぼうかとしとったくらい」
「え、何があったんですか」
「知らん。理由は知らんけど多かった。しかも不思議なんが皆同じような悪夢なんよね。小さい女の子に殺されるっていう……」
凛太はそれを聞いて言葉を失った。
「そう、だからこれは予約の電話が深夜にも鳴ってるんちゃうかな。緊急かもしれん。なんか急にえらいことになったな」
「…………」
「どうしたんや兄ちゃん。俺らもここでふざけとる場合ちゃうで。はよ行こう。今日も大忙しやな。全員出勤やで」
「……そうですね」
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